第105章 毒と薬は紙一重
私自身、兄や弟はいるにはいたが腹違いでもあり、共に過ごすことは少なかった。
女ながらに武芸や馬術の嗜みはあったが、やはり男子とは違うだろうとも思っていた。
織田家の嫡男として吉法師をしっかり養育していかねばと思いながらも、自分にできるだろうかという不安もまた大きく感じていたのだ。
(可愛がってるだけじゃ、ダメなんだろうけど…)
「だぁ…んまぁ…」
「ふふ…可愛いねぇ、吉法師」
愛らしい笑顔を見ているだけで、自然と表情が緩んでしまう。
そのまま吉法師を連れて自室に戻る。
吉法師を目の届くところに下ろすと、すぐに玩具で遊び始めたので私もホッと一息吐いて文机の前に腰を下ろした。
信長様はもう政務中だろうか…後でお茶をお持ちしようか…でも何となく顔を合わせづらいな…などとぼんやりと考えてしまう。
今朝の余韻がまだ残っていて、思い出すと身の奥がじんわりと熱くなってきた気がして、着物の上からぎゅっと身体を押さえた。
ーカサッ…
「…ん?あれ、何だろ…?」
身動いだ拍子に着物の袂からカサッと乾いた音がしたような気がして、不審に思って触ってみると何か入っている。
(何だろう?何も入れた覚えはないけど…)
手を入れてみると乾いた何かに触れたので、そっと取り出してみる。
「えっ…これって…」
着物の袂に入っていたのは、乾燥した植物の根だった。
洗って乾燥させたものだろうか、泥などは付着しておらず、見た目は綺麗な状態だった。
「何でこんなものが…これって…薬草?っ…あっ、もしかして…」
先程、廊下で家康と出会った時の光景が脳裏に浮かぶ。
ぶつかって落ちた籠から派手に飛び散った薬草。
乾燥した植物の葉や根などが、廊下いっぱいに広がって…
(家康は拾わなくていいって言ったけど、止められる前に幾つか拾っちゃったんだよね。もしかしてその時に袂に紛れ込んじゃったのかな…??どうしよう、大事な薬草なのかな?何だろう、これ?見たことない薬草だけど…何の根っこなんだろう??)
根を指先で摘んでジッと観察してみるが、ありふれた見た目からは何の植物の根なのか分からない。
家康に師事して簡単な医学と薬学の勉強をした私にも、皆目覚えがない種類の植物だった。
(家康はこの薬草を失くしたこと、気付いてるかしら…早く持って行ってあげないと…)