第21章 年始の会
「御館様のお見えでございます」
小姓の方の声掛けで、広間いっぱいに居並んだ家臣の方が一斉に平伏する中、信長様の後に続いて広間に入り、上座の信長様の隣に腰を下ろす。
上座近くのいつもの場所に秀吉さんと光秀さん、三成くんの姿を見つけて、少しほっとする。
「皆の者、大儀である。面を上げよ」
信長様の低く威厳のある声が静まり返った広間に響き、家臣の方々の視線が一斉に上座の信長様に集まり、その後、私を見て一瞬驚いたような表情になる。
(っ、視線が痛い…)
「御館様におかれましてはお健やかに新年をお迎えになられ、終着至極に存じ上げまする。
我ら家臣一同、天下布武のため、御館様の大望のため、今年も身を粉にして織田家の為に働く所存でございます」
家臣の方々の一番前に座する年配の男性が口上を述べる。
「うむ、天下の平穏まで今少し、皆の働きにかかっておる。
より一層励むがよい」
「ははっ」
威厳溢れる姿に改めて『天下人』としての信長様の偉大さを感じて、思わず見惚れてしまっていると、信長様がチラッと私の方を見てニヤリと口の端に笑みを浮かべながら、私の膝を撫でてきた。
「!!?」
(だめですっ、皆に見えちゃいますよっ!)
慌てる私を無視して涼しい顔でまた前を見据えて、家臣達の挨拶を聞く信長様。
「………あの、御館様…隣におられる女人は、その、いかなるお方でございましょうか?」
先程挨拶をした年配の男性が、信長様に遠慮がちに声をかける。
「ふっ、これにおるは北条家の朱里姫だ。
………俺と生涯を共にする女だ。
皆も見知りおけ」
「………はっ」
一瞬の間と、家臣の方々の表情から全員が私に好意的でないことが感じ取られて、その後も続いた年始の会は私にとって居心地の悪いものだった。