第21章 年始の会
朝餉のあと
信長様に頂いた新しい打掛を纏う。
白地に金糸で幸菱の文様が織り込まれた豪奢な打掛。
化粧もいつもより濃いめにして、少し大人っぽくしてもらう。
(信長様の隣に座るのにふさわしい装いになってるかな)
(古くからの家臣の方もいらっしゃるって言われてたな……秀吉さんや光秀さん達とは違うから、緊張するな…)
「姫様、お綺麗ですよ」
千代が私の打掛の裾を整えながら、声をかけてくれる。
「ありがとう。織田家の家臣の方だけの場とはいえ、緊張するわね」
「……信長様は、姫様を家中の方々にご披露なさるおつもりなのですよね…その、どのようにご紹介されるおつもりなのでしょう?
姫様をご正室にお迎えくださる、というようなお話はございましたか?」
「千代ったら、私は別にそんなこと…
今は信長様のお傍にいられたらそれでいいの」
「…信長様の姫様へのご寵愛は疑いなきほどのものですけれど、いつまでも恋仲のまま、というわけにも参りませんでしょう?」
「………………」
千代の言葉に秘めていた心が揺らぐ。
信長様は『生涯離さぬ』『傍におれ』と言って下さった。
『妻になれ』とは言って下さらないけど……お傍にいてもいいのですよね?
決定的な言葉が欲しいけれど、その先を聞いてしまうのが怖くて聞くのをずっと躊躇ってきた。
これから始まる年始の会が、私と信長様との今後の関係を左右するような気がして揺れる心を抑えきれなかった。