第104章 魅惑の果実
乱れた自分の夜着を手早く掻き合わせて信長様の腕を引くが、動く意思のない身体はびくともしない。
憮然とした表情で虚空を睨んでいる。
(困ったな…本気で怒らせちゃったかしら…でも、私だって後には引けない。あぁ…私に信長様の余裕を奪うぐらいの手管があれば…)
口淫で一度達したぐらいではまだまだ余裕たっぷりで体力も有り余っているに違いない。
中途半端にお預けにするよりは、いっそこのまま流されてしまおうかとも思うが…そうすると信長様はきっと朝まで止まらないだろう。
それぐらいで疲れる信長様ではないだろうが、寝不足が続くのはさすがに良くないと思う。
「…信長様、お願いします。今宵はどうか…」
「分かった、分かった、何度も言うな。貴様がそこまで言うなら…聞いてやらんこともない」
「っ…ありがとうございます!では早速、寝所の方へ…」
いそいそと腕を引くと、信長様はゆっくりと鷹揚に立ち上がる。
すっかり乱れてしまった夜着に構うことなく前をはだけさせたまま歩き出す姿が妙に色っぽくて目のやり場に困ってしまった。
寝所に入ると、信長様は荒々しく寝台に横になる。
信長様にゆったりと身体を伸ばして休んで欲しくて、私はいつもより少し距離を取って隣に横になったのだが、すぐさま肩を抱き寄せられ、腕の中へ閉じ込められた。
ぴったりと密着した体勢に、否応なく身体の熱が上がる。
はだけた胸元に頬が触れて、ドキッと鼓動が高鳴った。
「あ、あの…」
「何だ?添い寝ぐらいは許されるだろう?」
「は、はい…あ、でも夜着は整えてからお休み下さいね。はだけたままでお風邪を召してはいけませんから」
「はっ、この暑いのに風邪など引かぬわ。今宵は貴様の希望どおり大人しく寝てやるのだから…朝になったら覚悟しておけ」
「……え?あの、今なんて…?」
最後の方がよく聞こえなかったが、何となく不穏な気配を感じて聞き返した。
「んー?聞こえなかったのならいい」
「ええっ…よくないです。何て仰ったのですか?もう一度言って下さい!」
「二度は言わん。ほら、もう寝るぞ。朝までたっぷり寝ろと言ったのは貴様だぞ」
「それはそうですけど……」
(何だか納得がいかない気がするけど…っ、それよりこんなに密着したままじゃ、緊張して眠れないよっ…)
いつも以上に強く抱き締められて、気持ちが落ち着かない。