第104章 魅惑の果実
朱里を腕に抱いて横になり、信長は目を閉じた。
『今宵はゆっくり身体を休めて下さい』
いじらしいぐらいの必死さで懇願されて渋々同意したものの、朱里の奉仕で欲を煽られた身体は当然簡単に収まるわけもなく、そんな状態ですんなり眠れるはずもなかった。
胸元に顔を埋め、時折小さく身動ぎする朱里の息遣いを感じるたびに、胸が煩いぐらいに騒めく。
朱里の方も眠れぬのだろう、抱き締めた身体にはどことなく強張りが感じられた。
触れたい
もっと深く愛し合いたい
このまま強引に奪ってしまいたい
疼く身体と揺れる心に、信長の胸の内は千々に乱れていた。
(全く…これではゆっくり休むどころではないな。俺がどれほど深く欲しているのか…こやつはちっとも分かっておらん。だが、今宵は百歩譲って朱里の望みを叶えてやろう。朝になったら焦らされた分だけたっぷり可愛がってやる)
お預けを食わされた仕返しに、朱里を思うままに甘やかすことを想像しながら、信長は眠りの淵に手を掛ける。
胸元に触れる朱里の頬の温もりを心地良く感じていると、次第に緩やかな眠気が訪れる。
その時、何故だかふと昼間に食した桃の甘く芳しい香りが思い出された。
蕩けるように甘く、人を惹きつけて止まない魅惑の果実
一口食べれば、その甘く瑞々しい蜜の味にもっともっと…と際限なく欲しくなる。
隣に寄り添う愛おしい存在は、桃のように甘く信長を惹きつけて止まない魅惑の果実そのものだった。
(一度喰ったら忽ち虜になり、忘れることも離れることもできない…恐ろしくも魅力的な俺だけの果実だ)
桃のようにほんのりと色付いた柔らかな頬を指先でひと撫でし、朱里の黒髪に触れるだけの口付けを落とすと、信長は目を閉じて満足そうに口元を緩めた。