第104章 魅惑の果実
「おっ、朱里、どうした?お前から訪ねてくるなんて珍しいな」
城内の秀吉さんの部屋を訪ねると、秀吉さんの文机もまた沢山の書類が積まれていて見るからに忙しそうだった。
(信長様が忙しいってことは秀吉さんも当然忙しいってことだ。私ったら、うっかりしてた…)
秀吉さんは私の姿を見て、文机の上に散乱した書類を慌てて片付け始めた。
「散らかってて悪い。今片付けて茶でも淹れるから、ちょっと待ってろ」
「やっ…ごめん、秀吉さん。忙しくしてるところに、急に来たりして。私、出直すから、お仕事続けて…」
「馬鹿言え、朱里を追い返すなんて、できるわけないだろ。ほら、そこに座って待ってな」
「う、うん…」
秀吉さんは私の手を引いて室内に招き入れると、テキパキと書類を片付け、お茶の準備をしてくれる。
文机の上に纏めて積み重ねられた書類の山を見て、何だか仕事の邪魔をしてしまったみたいで申し訳なかった。
「ごめんね、忙しいのに邪魔して…」
「なーに言ってんだ、邪魔なわけないだろ?朱里ならいつでも大歓迎だ。それに、そろそろ休憩しようと思ってたから丁度よかった。来てくれてありがとな、朱里」
「秀吉さん…」
(うーっ、優しすぎるよ、秀吉さん。甘々だよ…)
「………で?今日はどうした?何かあったのか?」
ズズッと茶を一口啜ってから、秀吉さんは優しい口調で私に尋ねてくれる。
何か心配事があって尋ねて来たのだと、秀吉さんにはお見通しみたいだった。
「う、うん…あの、えっと…信長様のことなんだけど……」
「御館様のっ!?御館様が如何なされたと言うんだ?御身に何か不都合が…?」
秀吉さんの顔色がサッと変わり、途端に険しい顔になった。
「や…あの、そういうわけじゃ…いや、でもお身体のこと、ではあるんだけど…」
「何っ?御館様はどこかお加減が悪いのか?俺は気付かなかったが…どこがお悪いんだ!?朱里っ、教えてくれ」
「ひ、秀吉さん…落ち着いて!そういう話じゃなくてね…」
(しまった…秀吉さんの信長様愛を甘く見てた…)
秀吉さんの慌て様に逆にこっちが焦ってしまう。
グイグイと距離を詰められて思わず後ずさる私にお構いなしに、秀吉さんは真剣そのものの表情で詰め寄ってくる。