第103章 旅は道連れ
祭りの喧騒を抜けた私達は、少し歩いて川べりまで来ていた。
この辺りまで来ると人通りも少なくなり、遠くには町の提灯の灯りが見えていた。
信長様は懐中から手拭いを取り出して広げると、草の上にさっと敷いて、私を座らせてくれた。
当たり前のようにされるさり気ない気遣いが嬉しい。
「ありがとうございます、信長様」
「ん…この辺りはまだ少しは涼しいな。暗いゆえ、川面の揺らぎなどは見えぬが…」
「静かで落ち着きますね」
祭りの賑わいの中にいるのは気持ちが高揚して勿論楽しかったが、少し離れて祭囃子を遠くに聞くのもまた情緒があってよかった。
ゆらゆらと揺れる提灯の灯りをぼんやりと見ていると、ふと視線を感じる。
隣に座る信長様が、口元に穏やかな笑みを浮かべて私を見つめていた。
「あ…えっと…信長…様?何か…?」
「見惚れていたのだ…貴様にな」
「っ……」
「今宵は一段と美しい。ようやく貴様を独り占めできるな」
「えっ…ど、どうされたのですか?急にそんな…」
予期せぬ甘い言葉に慌ててしまって上手く返せない。
今日の信長様は終始口数が少ない様子だったこともあり、ここに来て信長様からそんな風に言われるなんて思ってもいなかった。
「その着物もよく似合っている。涼やかな色合いが貴様の色白の肌に映えて格別に美しいな。共に選んだのが俺ではなく義元だというのが口惜しいが…」
冗談ではなく本気で口惜しげな顔をする信長様を見て、俄かには信じられない思いがする。
今の今まで私の着物姿を見ても何も仰らなかったのに、急にどうしたと言うのだろうか…
(信長様が義元さんに嫉妬…してる?まさかそんな…義元さんには着物を見立ててもらっただけなのに、それだけで…?どうしよう…今日はもう褒めてもらえるなんて思ってなかったから、凄く嬉しい…)
嬉しくて恥ずかしくて、急速に顔に熱が集まっていく。
熱くなった頬を押さえて俯く私の肩を、信長様は逞しい腕で抱き寄せた。
「信長様、あ、あの……」
何て言ったらいいんだろう…
素直にお礼を言いたいのに、嬉しさと戸惑いとで心がいっぱいになってしまい、上手く言葉が見つからない。
それでも何とか口を開きかけたその時………