第103章 旅は道連れ
「朱里、如何した?疲れたか?」
「っ……あっ……」
屋台を見ながら歩きつつも、どこか心ここに在らずな様子の朱里に信長は堪らず声を掛けた。
謙信たち邪魔者がいなくなり、ようやく二人きりになれたというのに何となく気不味い雰囲気のまま相変わらず気の利いた言葉も掛けられずにいたのだが、同じく口数も少なく浮かない顔をする朱里を信長は内心案じていたのだった。
「ご、ごめんなさい、私ったらぼんやりしてしまって…」
「少し休むか?このように人が多いと歩くだけでも疲れるだろう?どこか離れたところで休めばよい」
「いえ、そんな…せっかくのお祭りですし、信長様にももっと楽しんでいただかなくては…」
「俺は貴様が楽しんでおるのを見られれば、それでよい。ほら、行くぞ。歩き疲れたなら抱き上げてやってもよいぞ?」
繋いだ手をいきなり強く引かれて、引き寄せられる。
信長様の香の良い香りが鼻腔を擽り、身体の近さを意識してしまう。
ドキドキと煩いぐらいに胸が高鳴っていて、信長様に聞こえてしまうのではないかと気が気ではなかった。
体勢を崩して慌てる私に、信長様の愉しげな笑い声が降ってきた。
「やっ…大丈夫ですっ…自分で歩けますから…」
「そうなのか?それは残念だな」
焦って身を離すと、信長様は不敵に笑い、私の手を引いて歩き出した。
先を行く信長様の足取りは軽く、私達は祭りの喧騒の中を縫うように歩いていった。
(信長様、愉しそう…私も勝手に色々期待して落ち込んでばかりじゃいけないよね…)
信長様に褒めてもらいたいと自分勝手に期待して、それが叶えられなかったからと言って落ち込むなんて間違っていたのだ。
(私が本当に欲しいのは…信長様と共に過ごす時間。他愛なくてもいい…一緒にお祭りを楽しんで、二人だけの思い出が作れたら…それだけでよかったんだ)
「信長様っ…」
「ん?」
振り向いた信長様が嬉しそうに微笑んでいて、私はそれだけで満ち足りた気分になる。
「ありがとうございます。気遣って下さって…」
「……少し休んだら、また戻ればよい。謙信達に見つからぬように…な」
「ふふ……」