第103章 旅は道連れ
そう言って、佐助くんは手に持てる大きさに切った竹筒を差し出してくる。
竹筒の中には、細長く短冊切りに切った胡瓜が入っていた。
「この胡瓜は味付けはしてなくて、食べやすいように切っただけのものだよ。竹筒の底に入れてある『もろみ味噌』を付けながら食べるんだ」
言われて見てみると、胡瓜の入った竹筒の底には、粒々とした味噌のようなものが入っている。
これを細切りの胡瓜で掬い付けて食べるのだろう。
「わっ、こっちも美味しそうだね。胡瓜ともろみ味噌って合いそうだし、これも食べ歩きに丁度いいね。こんなことを思い付いちゃうなんて佐助くんってやっぱり凄い人だね」
「ありがとう。これなら子供達も食べやすいからね。ちなみに、もろみ味噌は酒のツマミにもなるから謙信様のお口にも合うかと思います」
佐助くんは謙信様に恭しく竹筒入りの胡瓜を差し出した。
「お前達が大量の胡瓜を買い付けていると兼続から聞いてはいたが、こんなものを作っていたとはな。胡瓜ともろみ味噌か…なかなかに酒が進む組み合わせだ。おい佐助、酒はどこだ?」
「えっ…いや、ここの屋台で酒は売ってません」
「何だと?酒がなくては始まらん。酒はどこで売っている?探しに行くぞ、兼続。信玄、お前も来い」
「は?いや、俺は天女と甘いものの屋台めぐりを…」
「煩い、早く来い」
「ええぇー?」
嫌がる信玄様を無理矢理引き連れて、謙信様はお酒の屋台を探しに行ってしまった。
(謙信様達、行っちゃった…あ、あれ?ということは…信長様と二人に…)
一緒に来ていたはずの慶次と三成くんもいつの間にかいなくなっていて、この場に残されたのは私と信長様の二人だけだった。
「謙信様のあれは、まさかの朱里さんへの気遣いなのか?」
「いや、単に酒が飲みたかっただけだろ?っていうか、朱里に気遣いって何だよ、それ?」
「気付かない幸村はまだまだ青いな…この胡瓜みたいに」
「上手いこと言ったみたいなドヤ顔すんな!胡瓜みたいって何だよ!ほら、佐助、さっさと手、動かせ。行列がちっとも減らねー」
互いに言い合いながらも二人は忙しそうに立ち働いている。
「あの、佐助くん、私も何か手伝うよ。こんなに行列ができてたら、二人だけじゃ大変でしょ?」
二人がお祭りを盛り上げようと頑張っているのに、私だけが着飾ってお祭りを楽しむなんて悪い気がした。