第103章 旅は道連れ
「やれやれ…見せつけてくれるなー」
「朱里の笑顔が見られるならば良いかとは思ったものの…やはり気に食わんな、信長め…」
仲睦まじく手を繋いで先を歩く信長と朱里の後を、謙信と信玄がぶつぶつと不満げに言いながら歩いていく。
「二人とも大人げないよ。朱里は信長の奥方なんだし、仲睦まじいのは良いことだよ」
呆れたように言いながら、義元は謙信達の少し後ろを歩いている。
(まぁ、謙信達が構いたくなる気持ちも分かるけど…。見た目は本当に天女のように美しいのに、少女のように可憐で可愛らしいところもあったりして…つい世話を焼きたくなるんだよね。あぁ、やっぱりあの着物にして正解だったな。本当によく似合ってる)
青藍色の涼やかな色味の着物が、朱里の雪のように白い肌を引き立てている。
高く髪を結い上げて露わになった真っ白い頸を後ろから見てしまえば、否応なく男の欲が煽られる。
襟元から僅かに見える陶器のような白い肌に、着物の下に隠された身体を想像せぬ男がいるだろうか…
芸術にしか興味がない義元ですら、久しく忘れていた邪な男の欲が甦りそうになっていた。
すれ違う男達がチラチラと無遠慮な視線を投げかけているのを、信長は当然気付いているのだろう。
どことなく不機嫌な様子を隠し切れない信長を見て、義元は意外な思いだった。
桶狭間の戦場で対峙した信長は、緊迫した場でも冷静さを失わないような男だった。
義元が勝ちを譲り、愛刀を差し出した時も信長は顔色一つ変えず粛々と戦を収めたのだった。
(信長がこんなに感情を表に出す人だとは思わなかった。朱里は信長にとってそれほど大切な女性ってことかな)
仲睦まじい二人の様子は傍で見ていても微笑ましく、義元は温かな心地で二人を見守っていた。