第103章 旅は道連れ
「わっ…と……」
前のめりになり体勢を崩した私の腕を隣の信長様が咄嗟に掴んでくれたので転ばずに済んだ。
「あ、ありがとうございます、信長様」
「おい、走るな。きちんと前を見ろ。危ないだろう」
私達の背後には数人の男の子がいて、どうやらその内の一人が私にぶつかったらしい。
勢いよくぶつかったために、その男の子は転んで尻餅をついてしまったようだ。
信長様は険しい顔で子供達を見下ろし、転んだ男の子を叱った。
「ご、ご…ごめんなさ…い…」
信長様の鋭い視線と殊更低い声音に男の子は怯えてしまい、立ち上がることもできずにその場で動けなくなっていた。
「大丈夫だよ。君は怪我してない?」
怯える男の子を安心させるように、私は身を屈ませて話し掛けた。
が、男の子は信長様や周りの武将達の雰囲気に圧倒され、怯えて身を縮こまらせていて私の問いかけにも答えてはくれない。
(ぶつかられたのは驚いたけど大したことなかったのに…こんなに怯えられると困ったな)
男の子を安心させるにはどうしたものかと朱里が悩ましく思っていると、信長は徐ろに男の子の腕を掴んで強引に立ち上がらせた。
「信長様っ!」
「ひっ…ご、ごめんなさい…」
「怯えずともよい。こんなところでいつまでも座り込んでいては往来の邪魔になる。元気なのは良いが、大人にぶつかれば怪我をするのは貴様ら子供の方だ。周りをよく見て、人混みに巻き込まれぬように気を付けよ」
きつく叱り付けるのかと思いきや、信長様は淡々と諭すように子供達に話しかけた。
「は、はい、すみませんでした」
ペコリと頭を下げると、男の子は友達とともに今度は走らずに人混みを縫うようにしながら歩いて去っていった。
「朱里、貴様は怪我はないか?」
「はい、信長様が支えて下さったから転ばずに済みました。ありがとうございました」
「随分と人が多いな。はぐれると厄介だ…ほら」
そう言うと、そっと手を差し出してくれる。
(手…繋いで下さるんだ。嬉しいな)
差し出された手にそっと手を重ねると、すぐに指を絡めてしっかりと繋いで下さった。
指先から感じる信長様の熱に、じわじわと身体の奥の熱が上がっていくようだった。
信長様のさり気ない気遣いが嬉しくて、私もまた繋いだ手にそっと力を込めた。