第103章 旅は道連れ
(信長様、やっぱりちょっと機嫌悪いな。この着物も…何も言って下さらないし。頑張って支度したんだけどな)
陽が暮れる前から張り切って着付けをし、髪も大胆に結い上げて、化粧もいつもより念入りに少し濃い目にした。
お祭り自体も勿論楽しみだったが、何よりも信長様に見て欲しくて準備した今宵の装いをどんな風に思って下さるだろうと、そのことが私の中での一番の楽しみだったのだ。
義元さんと一緒に選んだ着物は涼しくて着心地もよく、着ているだけで心が浮き立つようだった。
信玄様達も口々に綺麗だ、似合ってると褒めてくれて嬉しかった。
でも、私が本当に欲しいのは……
隣に立つ信長様をチラリと見上げると、憮然とした表情で和気藹々と楽しそうに話す信玄様達を見ておられる。
(お祭り…信長様と一緒に楽しめたらって思ってたのに…信長様は本当は嫌だったのかな)
複雑な思いを抱えたまま、皆で連れ立って城下へと向かう。
佐助くんと幸村は屋台の準備があるからと先に行っていた。
武将が屋台をやるなんて、一体どんなお店なのだろうかと気になって佐助くんに聞いてみたが、『当日まで秘密だ。きっと君を驚かせてみせる』と格好良く言われてしまった。
(う〜ん、気になる。佐助くんのことだから見たこともないようなものを用意してそうだけど)
楽しい想像をしながら歩いていると、町の灯りが見えてくる。
祭りの提灯に火が点り、ゆらゆらと幻想的に揺れているのだった。
灯りに近付くにつれ人の数も増えてきて、わいわいガヤガヤと賑やかな喧騒が聞こえてくる。
祭り囃子に屋台の売り子達の威勢の良い掛け声
祭りの最大の舞台である神社の境内は、もう既に人で溢れていた。
どこからこんなに集まったのかと思うほどに、沢山の人で溢れ返っており、人混みの間を走り回っている子供達もいた。
「わぁ…すごい人出ですね」
「春日山城下最大の祭りだからな。町の者達も毎年楽しみにしている。今年は朱里を案内できてよかったぞ」
「はいっ!ありがとうございます、謙信様」
謙信様にお礼を言って、改めて周りの屋台を見ようとした私は、ドンっと背中に小さな衝撃を受けてタタラを踏んだ。