第103章 旅は道連れ
「お帰りなさいませ、信長様。今日も暑かったから、お疲れではございませんか?」
夕方、戻ってきた信長様を出迎え、羽織を預かりながら労いの言葉をかける。
「ああ、今年は特に暑いように感じるな。梅雨明けからは雨も滅多に降らぬし、このままでは作物の生育にも影響が出る。今日、謙信達と視察した村々も日照り続きで難儀しているようだった。
織田の領地も例外ではない。留守中の差配については秀吉に指示をしてきたゆえ、問題はないだろうが…」
視察から戻ってきた信長様は、何事か思案するような憂いを帯びた表情だった。
「雨は多すぎても少なすぎても、民達には困るものなのですね。人は自然の力には抗えない…難しいものですね」
「自然のもたらす災いを人の手で完全に無きものにすることはできぬが、起こりうる災いを予想し、相応の対策を立てて被害を減らすことはできる。
それは国を治める者が為さねばならぬことだ」
「信長様…」
国を治める者として、信長様が為さねばならないことは戦以外にも数多ある。
日ノ本を豊かにし、民達が穏やかに暮らせる世を作るため、日々休む間もなく動かれている。
本当に大変な志だと思うのだが、信長様はそれが己の為すべきことだと、いつも事も無げに言われるのだ。
(いつか信長様の目指す世が実現したら、信長様にも穏やかに日々を過ごしていただきたい)
「……それで、貴様は今日はどうしていた?義元とは何か話をしたのか?」
「あ、私は今日は義元さんと佐助くんと一緒にお茶したり、城下に行ったりしました。義元さんとは美術品の話しか…」
私が、桶狭間の戦の顛末や織田家と今川家のその後のことが気になっていることに信長様は気付いているのだろう。
「城下へ行ったのか?義元と?」
「はい!あ、佐助くんも一緒です。明日はお祭りがあるそうで、提灯が掲げられたり、飾り付けなどももう始まっていて、とっても賑やかでしたよ!」
「ああ、俺も視察の帰りに少し見たが、春日山城下の祭りもなかなか盛大に行われるようだな」
「お城の方からも佐助くん達が屋台を出すらしいですよ。町の人達と一緒になってお祭りを盛り上げるなんて素敵ですね」
「佐助が屋台を…?彼奴が何の屋台をやるつもりか非常に興味深いな」
「ふふ…楽しみですね!」