第103章 旅は道連れ
私達が向かった先は、義元さんの馴染みの呉服屋さんだった。
その店は城下でも大店のようだが、義元さんの姿を見ると店主はすぐに奥から出てきてくれた。
「これは義元様、いらっしゃいませ」
「こんにちは。今日はこちらの女人に浴衣を見立てたいんだけど」
「それはそれは…明日はお祭りですからね。義元様のお知り合いの方でしたら特別良い物をお見立て致さねばなりませんね」
張り切ったように言い、早速いくつか見繕い始める店主に、私は少し慌ててしまう。
浴衣でありながらも見るからに高価そうなものばかりが、目の前に並べられたからだ。
「い、いえ、そんな…普通ので大丈夫ですよ…」
「普通の…と言われましても、失礼ながら貴女様が身に付けておられるお召し物は全て高価なお品ばかりとお見受け致します。ならば私どもも滅多なものはお出しできませぬ」
「そ、そんな…あの、義元さん…?」
きっぱりと言い切る店主に困ってしまった私は、義元さんに助けを求めるけれど……
「そうだね。せっかくだもの、朱里には越後の良いものを着てもらいたいね。そうだ、どうせなら浴衣じゃなく越後上布の着物はどうかな?本当は反物から選んで仕立てたいところだけど…仕立て上がりのものもあるでしょう?」
「はい!勿論でございますとも。越後上布は麻生地ですから着心地もいいですし、浴衣をお召しになるよりも涼しくて、且つ上品に見えますよ。これはいい、早速お持ち致します!」
引き止める間もなく、店主はいそいそと奥へと入っていく。
「義元さんっ、私、そんな高価な着物は困ります」
「どうして?越後上布は品があって美しいよ。派手さはなく落ち着いた色柄だから、君に似合うと思うんだけどな」
「でも……」
「高価な品だけど、それに見合う質のいい織物だよ。それに俺が君に贈るんだから値段なんて気にしなくていいよ」
「そんな…義元さんに贈っていただくわけには…」
(そんなの、もっと困るよ!う〜ん、義元さんの勢いに流されてばかりだ、私。どうしよう…)