第103章 旅は道連れ
春日山城下は今日も人通りが多かったが、明日の祭りに向けての準備が彼方此方で行われていて、一際賑わっていた。
今日も朝から良い天気で、照りつける陽の光のせいで歩いているだけで額に汗が滲む。
祭りの準備に忙しなく動いている人々も皆一様に、暑そうに汗を拭っていた。
「ふぅ…今日も暑いですね」
額に浮かぶ汗を手拭いで押さえながら隣を歩く義元さんに声をかける。
「そうだね。越後は雪国だけど夏が涼しいわけでもないしねぇ」
そう言いながらも義元さんの額には汗一つ浮いていない。
美しい意匠の扇子をヒラヒラと優雅に扇ぎながら、涼しげな表情を見せている。
(さすが義元さん…暑さを微塵も感じさせない優雅さだわ。うっ…私ったらこんなに汗ばんじゃって恥ずかしい…)
「朱里さん、よかったらこれ使って。俺が開発した『風車型手持ち扇風機』だ」
「えっ!?せ、せんぷうき…って何これ?使うって…どうやって使うの??」
佐助くんが懐から取り出した奇妙なものは、一見すると子供の玩具の風車だったが、風車よりしっかりした作りで持ち手のところに引き手のようなものが付いていた。
「ここをこうして押し下げると…」
佐助くんが引き手のところを持って引っ張ると、なんと風車が自動的に回り出したのだ。
緩やかな風が頬を撫でて、一服の涼が得られたような気分になる。
「すごいよ、佐助くんっ!引っ張るだけで風が出るなんて一体どういう仕組みなの??」
「ちょっとしたカラクリだけど、扇子で扇ぐより疲れないかなと思って。手持ち扇風機は現代女子の必須アイテムだ」
佐助くんはまたよく分からない不思議なことを言いながらも、カチカチと扇風機を操って私に風を送ってくれる。
「んー気持ちいい!クセになりそう」
「佐助はほんといつも面白いものを考えつくなぁ」
義元さんも感心したように佐助くんの手元を見ている。
(本当に佐助くんって不思議な人だな。聞いたこともない言葉を言ったり、見たこともないものを考えついたり……まるで異国の人みたい…ってそれはさすがに言い過ぎか)
心地良い風にあたりながら歩む足取りは幾分軽くなったような気がした。