第103章 旅は道連れ
(これは…泣けってこと!?うっ…佐助くんってばなんて無茶ぶりを…)
急に泣くなんて無理だよと内心悲鳴を上げながらも、咄嗟に信長様の胸元に顔を埋める。
「っ…朱里っ…?」
自身の胸元に顔を埋めて肩を小刻みに震わせる私に、信長様は戸惑いがちに呼びかける。
「ううっ……」
「!?」
「朱里っ、泣いているのか!?っ…お前を泣かせるつもりなど…」
「う〜ん、天女の涙は見たくないなぁ…ごめんよ、朱里」
謙信と信玄が慌てた様子で朱里の顔を覗き込もうとするが……
「貴様らに朱里の泣き顔は見せん。離れろ」
信長は庇うように朱里の頭を胸元にぎゅうぅっと引きつける。
「うっ…ふぅ…」
(うぅ…苦しいっ!信長様ったら、泣き顔は見せないだなんて…本当は泣いてないけど…嬉しい)
こうなったら上手く泣き真似をして誤魔化すしかない!と腹を括って、ぐずぐずと鼻を啜る真似をしていると、信長様は益々強く私を抱き締めてくる。
謙信様や信玄様から隠すように腕の中へと閉じ込められる。
宥めるように優しく頭も撫でてくれ、さすがに私も罪悪感に苛まれてしまった。
(成り行きとはいえ、信長様達を欺くなんて…やっぱり気が引ける。すごく心配してくれてるみたいだし。でも、今更嘘泣きだなんて言い出しにくいな…)
心の内で葛藤しながら、信長様の様子が気になった私は、囲われた腕の中からこっそりとその表情を見上げた。
「っ…!?」
ニヤリと口の端を上げて意地悪そうな笑みを浮かべる信長様と目が合った。
(の、信長様っ…これは…嘘泣きだって分かってる…??)
焦って顔を伏せた私の耳元に信長様は唇を寄せて…私だけに聞こえるように囁いた。
「……朱里」
その冷静過ぎる声に、思わずビクッと身体が震える。
「俺を謀るとは、けしからんな。宴のあとは仕置きだ。覚悟しておけ」
甘さを含んだ声色で物騒なことを言いながら、皆に見えないようにさり気なく耳朶を甘噛みされた。
(っ…ンンッ!)
謙信様や信玄様がいまだ気遣うように声を掛けてくれているのを聞きながらも、私はいつまでも信長様の胸元から顔を上げられなかった。