第103章 旅は道連れ
「おい、勝手に人のものに触れるなと何度言ったら分かる?この、女誑しがっ」
横から伸びて来た信長様の腕が私の肩を抱き寄せる。
強い力で抱き寄せられた為、体勢が崩れて信長様の胸元に飛び込むような格好になってしまった。
「の、信長様っ…」
ふわりと香る酒の香りに、頭の奥がクラクラしてしまう。
信長様の隣に座る謙信様が無造作に盃を傾けながら私の方にチラリと視線をやるのが見えて、恥ずかしさで居た堪れなくなった。
「全く…信玄、貴様は油断も隙もないな。人の妻に気安く触るな。次に朱里に触れたら…分かっているだろうな?」
鋭く射るような目で信玄様を睨み付けながら、信長様は刀の柄に手を掛ける。
その目は真剣そのもので、少しの余裕も見られなかった。
その場が凍り付いたような緊張感が走る。
「の、信長様っ、ダメです!待って…」
「……お前たち、勝手に斬り合うなど許さんぞ。俺も混ぜろ」
「えっ…ちょっ…ま、待って…謙信様も、待って下さいっ!」
刀を手に早くも立ち上がらんとする謙信様に焦ってしまうが、信長様の腕の中に囚われている体勢では何ともできない。
「んー、天女の前で斬り合いなんて無粋な真似はしたくないが…信長、お前とはいずれ決着を付けねばならないからな」
「ふっ…同盟を結んだとはいえ、俺とて貴様らと仲良くやるつもりはない。よかろう、相手になってやる」
「信長様っ…」
(ど、どうしよう…三人ともやる気になっちゃってる…)
上座で急に始まってしまった主君同士の睨み合いに、広間にいた上杉家の家臣達や慶次や幸村たちも固唾を飲んで見守っている。
下手なことを口走れない雰囲気が漂い、賑やかだった広間の中がおかしなぐらいにシンっと静まり返っていた。
「はいは〜い、そこまでですよ。謙信様、どうどう…」
一触即発の緊張感が漂う中、気の抜けたような飄々とした声とともに佐助が謙信と信長の間に割って入る。
緊張感のかけらもない佐助の姿を目にして、謙信の眉がこの上なく不愉快そうに顰められる。
「そこを退け、佐助。先に斬られたいのか?」
「いえ、それは遠慮しておきます。謙信様、いいんですか?朱里さんが今にも泣き出しそうですが…」
佐助くんがさり気なく私を見て、パチンっと片目を瞑ってみせる。