第103章 旅は道連れ
「改めまして…朱里さん、春日山城へようこそ!暑い中、長旅は大変だったんじゃない?」
「そうでもないよ。来る途中で海も見れたし、初めて見るものも多くて…本当に楽しい旅だったよ」
客間に案内された後、信長様は謙信様、信玄様と別室でお話をされるということで、残された私は佐助くんと幸村と一緒に義元さんのお部屋でお茶を戴いていた。
(それにしても…このお部屋、素敵な品がいっぱいあるな。派手ってわけじゃないのに上品で何とも言えない趣きがある美術品ばかり。これ全部、義元さんの趣味なのかな?そうだとしたら、かなりの目利きだよね…)
名のある職人の手によるものから無名と思われる作者の作品まで様々のようだが、一目で惹きつけられる美術品の美しさに私は自然と目を奪われていた。
無作法だと思いながらも、私はお茶を飲みながらチラチラと室内を眺めてしまっていた。
「ふふ…気になるものがあったら、どうぞ手に取って近くで見てね」
「あっ…す、すみません…私ったら、勝手にジロジロ見ちゃって」
「全然構わないよ。美しいものは実際に見て触って、その価値を感じて貰いたいからね。例えばほら、君が今お茶を飲んでる茶碗は唐物の天目茶碗なんだけど、色合いがなかなか素敵だと思わない?」
「は、はい…」
(か、唐物の天目茶碗…そんな希少なものだったなんて…うぅ、急に緊張してきた…)
義元さんが優美な手前で点ててくれたお茶はもちろん美味しかったのだが、さり気なく出された茶碗までが希少な美術品だと聞いて、茶碗を持つ手に緊張が走る。
「そんなに緊張しないで、朱里。可愛いね、君は。信長が大坂城の奥へ隠して誰の目にも触れさせないぐらい大切にしてるっていうのも頷ける気がするよ」
「そ、そんな…」
ふふふ…っと花びらが綻ぶような笑顔で微笑まれて、恥ずかしくてなんと答えていいものか分からなくなり、頬にかぁっと熱が集まっていった。
「大坂城にも一度行ってみたいな。信長の天下布武の象徴だもの、さぞかし素晴らしい城なんだろうね」
「あ、ええっと…そう、ですね…」
何て言ったらいいんだろう…
天下に比類なき大坂城に住まう信長様は、今川家を始め数多の大名を滅ぼして天下布武を成し遂げたわけであり、その象徴が大坂城なわけで……
「義元さん、朱里さんが困ってます」
「そうだぞ、ばか元っ!ちょっとは気を遣え!」