第103章 旅は道連れ
「謙信様、かような所で立ち話もどうかと存じますので…皆様を城内へご案内致します」
凛として氷のように研ぎ澄まされ、それでいてどこか生真面目な律儀さを感じさせるような声の主は、謙信の後ろに控え目に従っていた長身の男性だった。
白銀の髪に、清冽さすら感じさせる澄んだ藤色の瞳。
人を惹きつけるような美しい容姿に、思わず目を奪われてしまう。
「そうだな。男どもはどうでもよいが、長旅で疲れているであろう朱里を早く休ませてやらねばな。兼続、客間へ案内しろ」
「はっ、畏まりました、謙信様」
兼続と呼ばれた男性は、謙信様に深く礼をすると、私達を案内すべく先に立って歩き始めた。
私達へは簡単に挨拶をした程度で、礼儀正しいが余計なことは一言も言わない人のようだった。
(直江兼続様か…この方が謙信様の右腕と名高い上杉家の軍師なのね。見るからに有能そうな方だけど…少し冷たい印象の方にも見える。同じ軍師の立場でも、朗らかで親しみのある印象の三成くんとは正反対な感じだな)
どこか余所余所しさも感じさせる兼続の印象に戸惑い、先を行く背中をじっと見つめてしまっていた。
「行くぞ、朱里」
「は、はい…」
信長様に促され、城の中へと歩き出す。
(織田軍の武将達も個性的だけど、上杉軍の武将達も皆、独特で掴みどころがない方ばかりみたい。親しくなれるといいんだけど…)
越後に着いて目にするもの全てが目新しく、新しい出逢いもあったりして、何となく心が忙しない。
色々気になること、聞きたいことも山積みだったが、こうして無事に越後に辿り着いたことで少し肩の荷が降りた気もしていた私は、城内へと向かう足取りも自然と軽くなっていた。