第103章 旅は道連れ
私達は、城へ戻ると言う佐助くんと幸村と一緒に春日山城へ向かうことにする。
信玄様と幸村は、私達の訪問に合わせて数日前から春日山城に来てくれていたそうだ。
「着くのが遅くなってごめんね」
私が謝ると、幸村は何でもないことのように笑う。
「そんなこと気にすんなって。信玄様も俺もこっちにはよく来てんだ。信玄様が甲斐に戻るまでは、長らくここで世話になってたしな」
信長様と信玄様が和解し、甲斐を共同統治するようになるまで、信玄様と幸村は春日山城に身を寄せていた。
今は信玄様は甲斐国、幸村は信州上田の地に戻ってはいるが、こうして春日山に来ることも多いのだそうだ。
「やぁ、朱里。春日山へようこそ。よく来たね」
「信玄様!ご無沙汰しております」
城門前に着くと、そこには懐かしい顔が出迎えてくれていた。
「信玄、貴様、自分の城のように言うな。朱里、よく来たな。息災か?」
「謙信様!わざわざ出迎えて下さるなんて…ありがとうございます」
「長旅で疲れただろう?部屋を用意してある。ゆっくりするといい」
「そうだな。後で幸村が買ってきた甘味を持って行くから、一緒にお茶にしよう」
「は、はい。ありがとうございます、信玄様」
「貴様ら…朱里に構い過ぎだ」
信玄様達に囲まれた私を、信長様は不機嫌そうに引き寄せる。
「久しぶりに会ったんだ、少しぐらい大目に見ろ。お前は天女を独り占めして毎日愛でてるんだから…男の嫉妬はみっともないぞ」
「煩い。黙れ、信玄。この女誑しが…」
「やれやれ、酷い言い様だなぁ。朱里、こんな嫉妬深い男はやめて、今からでも俺のところへおいで」
ニッコリと笑い、さりげなく私に差し伸べられた信玄様の手を、信長様は邪険に振り払う。
信長様の機嫌が目に見えて悪くなっていくのが分かり、私は気が気ではなかった。
「信玄、そのぐらいにしておいたら?美しい人の顔色が翳ってしまっては元も子もないよ」
信玄様達の後ろから鈴が鳴るような澄んだ美しい声がして、上品な衣を纏った優雅な人が姿を表す。
(うわぁ…なんて綺麗な人…男の方…だよね?誰だろう…立ち居振る舞いも優雅で洗練されていて、まるで都人みたい…)
「義元の目から見ても朱里は美しいだろう?まさに天女と呼ぶに相応しい…魔王には勿体ない女人だ」
「信玄ったら…いたずらに信長を煽るのは良くないよ」