第103章 旅は道連れ
何と答えるべきか迷っていると、いきなり後ろから誰かの手に腰を引き寄せられる。
「っ…信長様!?」
信長様は人目も憚らず私を腕の中へ抱き込むと、不機嫌そうに佐助くんを睨む。
「おい、忍び。朱里を困らせるな。こやつを困らせていいのは俺だけだ」
佐助くんに不遜に言い放つと、背後から私の耳をぱくんっと食む。
「ちょっ…な、何する…んっ…やっ…」
歯で柔らかく甘噛みされて、佐助くんの前だというのに甘ったるい声が漏れてしまう。
「っ…相変わらずの溺愛っぷりだな。こっちが目のやり場に困るんですが」
ほんのり頬を赤らめてそう言いつつも、佐助くんの視線は真っ直ぐ私達に向けられていた。
(うっ…佐助くん、すごい見てるし…もぅ、信長様ったら強引なんだから…)
この旅ですっかりお約束のようになってしまった信長のやたら強引な人前での触れ合いに、嬉しいような恥ずかしいような何とも言えない気持ちになり、朱里は頬を朱に染めて下を向く。
「ごめん、朱里さん。君を困らせるつもりはなかった。数日前、国境の偵察に出ていた軒猿仲間から君たちが越後領内に入ったって報告があったから、今日ぐらいそろそろ城下に到着する頃だろうと思ってた。今日、この古書店には兼続さんのおつかいで来てたんだ。だからそういう意味では、ここで君たちに出会えたのは偶然でもあり必然でもある、ということになる」
「そ、そうだったんだ…」
(すごい回りくどい!結局どっち??)
佐助くんの物言いに困惑している間も、後ろから信長様が首筋に口付けてきたりしていて頭は混乱するばかりだ。
気が付けば、三成くんはいつの間にか一人で店の中に入ってしまっていて、積まれた書物を片っ端から読み耽っているし、慶次は人前でイチャイチャする私と信長様を面白そうに見ながら笑っている。
(もぅ!皆、ほんと自由過ぎるよ……)