第103章 旅は道連れ
そうして天候にも恵まれた穏やかな旅路が続き、私達は遂に越後の地に到着した。
春日山城下は人出も多く賑わっている様子だが、落ち着いた雰囲気のある良い町並みで、町人達も皆、活き活きとして見えた。
「わぁ…すごく賑わってますねぇ」
様々な物を売る店が立ち並ぶ通りを馬を引きながら歩く。
落ち着こうと思いながらも、ついキョロキョロと視線が泳ぎがちになってしまう。
「余所見し過ぎて転ぶなよ、朱里」
「っ…分かってるよ!慶次こそ、あっちこっち見過ぎじゃない?」
「なっ、そんな見てねぇって!あ、おい、三成、勝手に立ち止まるなよ」
「いえ、ちょっとこの書物が気になってしまいまして…これは大坂でも見たことがない貴重なものとお見受けしますが…」
「み、三成くん、今は我慢して!先に謙信様達にご挨拶に行かないと…あ、ダメだよ、待って〜」
「……貴様ら、騒々しいぞ」
ワイワイと言い合うのも、また楽しいものだ。
ようやく目的地に着いた達成感とも相まって、気持ちが高揚するのを抑えられない私達は、知らず知らずの内に声も大きくなってしまっていた。
「朱里さん」
「わっ!佐助くん!?」
三成くんがふらふらと入りかけていた古書店の中からいきなり現れたのは、佐助くんだった。
眼鏡の縁をクイっと持ち上げつつ現れた佐助くんの表情は、相変わらず読めない。
「ようこそ、春日山へ。待ってたよ」
「あっ…ご、ごめんね、遅くなって。その、道中色々あって…」
牢人達の討伐や、その他諸々の寄り道もあって、予め上杉家へ到着予定として伝えていた日からは数日遅れていた。
「大丈夫。大坂と越後は遠いから、それなりに時間がかかることは承知してる。謙信様も気にしてないから安心して」
「ありがとう!あ、それで佐助くんはもしかして私達を迎えに来てくれたのかな?それとも、ここで会ったのは偶然?」
偶然にしては都合が良過ぎる気もするが…さりとて、春日山に今日着くことは先触れも出していないから分かるはずもないのだが……
「さて、どっちでしょう?」
「え?」
顔の表情筋がピクリとも動かない。眼鏡の奥の瞳がジッと私の目を見つめてくる。
(えっ…これ、本気で聞かれてる?それとも…揶揄われてる?わ、分からない…)
佐助くんの感情を読み取るのは、相当難しい。