第103章 旅は道連れ
信長様に触れられて落ち着きなく高鳴る鼓動を抑えようと、馬上から周りを見渡してみる。
この辺りは村も少なく、大きな街道からは少し離れているせいか道の整備もあまり行き届いていないようだった。そのため、道幅も広くはなく、でこぼこした道も多かった。
「わっ…結構揺れるなぁ…」
でこぼこ道は馬も歩きにくいのか、馬上の揺れも激しい。
「朱里、大丈夫か?」
後ろから慶次が心配そうに声をかけてくれる。
「ありがとう、慶次。ちょっと揺れるけど、これぐらい平気だよ」
「そうか?しっかし、一人で馬に乗れるなんてな!お姫様育ちなのに大したもんだ」
慶次には旅の途中で、私が北条家の出だということを話してあった。
慶次は、自分が織田家を離れている間に信長様が正室を迎えたことは風の噂で聞いていたらしいが、その相手までは詳しく知らなかったらしい。
「朱里様は乗馬だけでなく、薙刀などもお得意なのですよ。信長様の奥方になられる前は、家臣の娘達に教えたりもなさってましたよね。弓なども、確か一時期、家康様に指南を受けておられましたか?」
「う、うん…でも、弓は少し習った程度だから自慢できるほどじゃないよ?」
「いやいや、十分すごいって!武術の嗜みがあるとは、さすが信長様の奥方だ。頼もしいねぇ!」
「慶次ったら、揶揄わないで。今は全然だよ」
信長様の妻になり、子を産んで子育てに追われるうちに、すっかり鍛錬不足になり、身体も鈍ってしまっていた。
薙刀も弓も久しく触っていないし、今もまだ身体が動くかどうか怪しいものだ。
(旅から戻ったら久しぶりにやってみようかな。やっぱり毎日少しずつでも続けることが大事だよね…)
「じゃあ、俺が稽古に付き合ってやろうか?俺の得意は槍だが、薙刀も指南できるぜ!」
慶次は得意げに胸を張りながら、快活に笑う。
その屈託のない笑顔につられて、私も口元が自然と緩んでいた。
「そうなの?じゃあ、お願いしようかな。一人より相手がいる方が鍛錬になるし…」
慶次の好意に甘えようかと思ったその時だった。
「……朱里。相手なら俺がいるだろう?慶次に頼むまでもない」
「えっ?信長様、薙刀なんて出来るんですか!?」
いきなり話に割って入ってきた信長様にも驚いてしまったが、信長様と薙刀が結び付かなくて無遠慮に聞いてしまった。