第103章 旅は道連れ
翌朝、お世話になった大名家の方々に別れを告げて、私達は再び越後への旅路に戻った。
「今日も良いお天気でよかったですね、信長様」
「ああ、暑くなりそうだな。朱里、疲れたら早めに言えよ」
「はい!それにしても…無事に出立できてよかったですね」
「ん?ああ…」
朝餉の席で大名から『是非、もう一日ご滞在下さい!更に色々とご教授願いたく…』と言われた時には、信長様も私もさすがに呆気に取られてしまった。
「彼奴め、頼りないくせに妙なところで強引な奴だ」
「ふふ…随分と慕われておいででしたね。信長様がお優しいからですよ」
「は?俺は優しくなどない。だが、まぁ、彼奴にはもっと鍛錬が必要だろう。あのような頼りなさでは、今攻められたら一溜りもないぞ。この旅から戻ったら、大坂から兵を率いて俺が直々に合同訓練でもしてやろう」
「ふふ…信長様が兵を引き連れて来たら、びっくりさせちゃうかもしれませんね」
(でも、そういうところが優しいんだ、信長様は。言い方は突き放したみたいに冷たいんだけど、なんだかんだ面倒見がいいっていうのか…)
「……何だ、そのニヤけた顔は」
「えっ?そんな顔…してました?」
「甘味を食べた時のようなふやけた顔だったぞ」
「ひどいっ!そんな変な顔してませんよ!」
「変、とは言ってない。蕩けた愛らしい顔だ。俺は好きだぞ」
「えっ…や、もぅ…そんな…あっ…」
朱里の乗る馬に愛馬を寄せた信長は手を伸ばし、朱里の頬にそっと触れる。
手の甲でするりと撫でられ、その淡い感触に背筋が甘く震えた。
「んっ…ダメ、危ないですよ」
「抱き締められぬのだから、これぐらいは許せ」
「もぅ…仕方がないですね」
越後までは長い道行きになることもあり、信長様の馬に二人乗りはさすがに人も馬も疲れてしまうだろうと思い、それぞれに別々の馬を用意してもらったのだ。
が……信長様はそれが些かご不満のようで、馬上であろうとお構いなしに、こうして合間合間に触れようとなさる。
(人前で触れられるのは恥ずかしいけど、信長様のこういう子供みたいなところは好きだから…困る)
少し後ろに控える慶次と三成くんの目が気になって、素直に甘えられないのがもどかしい。
(本当はもっと触れて欲しいし、私も信長様に触れたい。こんな外でそんな風に感じちゃうなんて…私、どこまで欲が深いんだろう)