第103章 旅は道連れ
「おい、目を逸らすでない。隅々まで見ろ。怪我など、一つもないであろう?」
クイっと顎を捉えられて前を向かされると、否が応でも逞しい裸体が目に飛び込んでくる。
「っ……」
夜とはいえ室内は灯りが灯ったままであったから、引き締まった筋肉だけでなく、数々の戦で負ってきたのであろう大小様々な傷跡もはっきりと見えている。
(傷跡はたくさんあるけど、新しく増えたものはないみたい…っ…よかった、本当にお怪我がなくて)
怪我がなかったことに安堵しつつ、そっと手を伸ばしていくつもある古い傷跡に触れてみた。
(信長様があらゆる犠牲を厭わずに乱世を生き抜いてきた証だ。これからも消えることのない、信長様の生の証)
傷跡をなぞるように指先を滑らせていく。この傷の一つ一つが今の信長様を作っているのだと思えば、見逃してしまいそうな小さな傷ですら愛おしかった。
「っ…くっ、ぅ…はぁ……」
(えっ…?)
「っ…貴様っ…散々焦らしておいて俺を煽るとは…」
「ええっ…私、何も…」
心なしか顔が紅潮し、悩ましげな吐息を溢し始めた信長様に戸惑ってしまう。
「くっ…次は貴様の番だ」
「えっ?」
傷跡をなぞっていた手を鷲掴まれて、頭の上で押さえ付けられてしまった。
「俺の無事は十分確かめたであろう?ならば、次は俺が貴様を確かめる」
「えっ…えっ?私、別に怪我なんてしてませんよ??」
「ふっ…具合が悪いところがないか、隅々まで調べてやろう」
上から私を見下ろしながらニヤリと笑ったその顔は、悪戯を思いついた子供のような無邪気さなのに、とんでもない色気を放っていて……
「ま、待って下さい…私、どこも悪くないって…言いましたよね?」
「ああ、聞いた。だが、真実は己の目で確かめねばなるまい?」
「そ、そんな…あぁっ…ちょっと待って…やっ…脱がさないで…せ、せめて灯りを…」
「阿呆っ、消したら見えぬだろうが…貴様のいいところが…」
「ええぇーっ!」
(もぅ!話が変わっちゃってるし…あっ、もう全部脱がされて…あぁ…)
「朱里…」
「んっ…信長さま…?」
「貴様の全て、余すところなく俺に見せよ」
露わになった私の肌に信長様の逞しい身体が重なる。
互いの身体を隅々まで確かめ合って、深くまで愛を重ねる夜が始まろうとしていた。