第103章 旅は道連れ
信長の深い溜め息を聞いて、胸の奥がきゅっと締め付けられるような気持ちにさせられる。
(うっ…呆れられちゃった。そうだよね…仮病だったなんて、怒られても当然…っ…)
自分が情けなくて、込み上げてくるものに目頭が熱くなったその時……褥の上で身体を重ねるようにぎゅっと抱き締められた。
「んっ…あっ…信長…様?」
「………どこも悪くないのだな?」
「っ…はい、大丈夫です」
「気分が沈んでいた、と言っていたが…それはどうなのだ?気鬱の病ではないのか?」
「んっ…そんな大袈裟なものじゃ…今日は朝から色々あったから…気持ちが少し疲れてしまっただけだと思います。賑やかな場に出る元気がなくて…嘘を吐いてしまってすみませんでした」
「いや…そうか、貴様の気持ちに気付いてやれず、貴様を振り回してしまった…俺のせいだな」
「やっ、違っ…違います!信長様は悪くないです。私の気持ちが弱いせいで…」
信長様が出陣されるたび、不安な気持ちが抑えられない。
恋仲の時から、妻となり、子供達の母となっても、それは変わることなく私の心を蝕む。
信長様と共に歩む、最期の時まで一緒に、と心に決めていても、出陣のたびに心が揺れる。それが大きな戦でも、些細な小競り合いであっても揺れる心は変わらない。
弱い自分の心が…疎ましい。
「貴様の心は弱くなどない。俺はそもそも戦場で死ぬ気は微塵もないし、負けるつもりもないが…貴様が城で俺の帰りを待っていると思えばこそ、必ず勝つという強い思いで戦場へ赴けるのだ。
貴様の心は強い。俺の心を支えられるほどにな」
「信長様……」
「貴様の不安をすぐに拭ってやれず、すまぬことをした。許せ」
ぎゅうっと抱き締める腕に力が籠る。
「んっ…信長様っ…あぁ…」
一人で感じていた心細さが、信長様の温もりでじんわりと溶かされていくようだった。
私もまた、自分から信長様の背中に腕を伸ばし、ぎゅっと抱き着いた。
(ずっとこうしていたい。離れたくないっ…)
「っ…ンッ…ふっ…」
互いに抱き締め合ったまま、信長は柔らかく唇を重ねる。
壊れものに触れるような優しい口付けは、内に秘めた熱を淡く切なく呼び起こす。
(もっと…もっと深く信長様を感じたい)