第103章 旅は道連れ
「食欲はあるのか?夕餉は?何か食べたのか?」
信長の質問責めは止まらない。
その間も触れる手は止まらず、頬に触れたり髪を優しく撫でてくれたりと徹底的に甘やかされる。
「あ、あの、信長様…ちょっと一回落ち着いて下さい!」
「馬鹿な…落ち着いてなどいられるかっ!貴様が体調を崩すなど、余程のことだろう。ほら、早く横になれ。書物など読んでいては疲れてしまうぞ?」
「ちょっ…ちょっと待って…」
グイグイと押し倒そう(?)としてくる信長を、朱里もまた必死で押し返す。
(もぅ!何なの、これ…)
この上なく心配されているのは分かる。
私が信長様に相談もせず今宵の宴に出なかったから…気分が優れないと言ったから…心配させてしまったのだろう、とは思う。
(けど、これはちょっと予想を超えてる!ここまで心配されるなんて思ってなかった…)
正直なところ、特に体調が悪いわけではなかった。
朝から色々あったこともあり、少し気分が塞いでいて賑やかな宴の場に出ることが億劫に感じてしまったのだ。
戦勝を祝う宴という大事な場で信長様の妻としての役目をきちんと果たさねばとは思いながらも、今宵はどうも公の場に出る気になれなかったのだった。
(『気分が優れない』って言ったら、そっとしといてくれるかと思って言ったのに、逆に信長様をこんなに心配させちゃうなんて…私、何やってるんだろう…)
決して軽い気持ちで言ったわけではなかったが、宴を抜けてまで様子を見に来てくれた信長の優しさにひどく罪悪感を感じてしまい、居た堪れなかった。
「……ごめんなさい、信長様」
「ん?」
一転して抵抗を止め、素直に押し倒された私を、信長様は上から見下ろして意外そうな顔をする。
「何故謝る?」
「ごめんなさい…私、どこも悪くないです。気持ちが沈んでるだけで…どこも悪いところなんてなかったのに…宴、出なくてごめんなさい。っ…心配させてごめんなさい」
「朱里……」
自分が情けなくて恥ずかしくて、上から見下ろす形の信長様の視線を受け止められなかった。
目を逸らし横を向く朱里を、信長はしばらくの間黙って見下ろしていたが……やがて深い溜め息を一つ吐いた。
「はぁぁ…」