第103章 旅は道連れ
「信長様っ、此度は何とお礼を申し上げてよいか…信長様のおかげで無事に一揆を鎮圧できました。今宵は戦勝の宴を開きますので、是非もう一晩お泊まり下さい!」
大名は、興奮冷めやらぬ様子で信長様に話している。
(えっ…もう一晩って…そんなことしてたら旅の予定が狂っちゃう。でも、せっかくのご厚意を無下に断るのも悪いかな…それに信長様だってお疲れだろうし、この時間から出立しても暗くなる前に今日の宿まで着けないかもしれない。それならいっそ、もう一晩こちらにお世話になったほうがいいのかも…)
「そうだな…先を急ぐ旅ではあるが、今から出立してもさほど先へは進めまい。出立は明日の朝に致す」
(やっぱり、そうなるよね…そうと決まったら信長様にはゆっくり身体を休めていただいて…)
「ありがとうございます!それでしたら、信長様、是非とも私に戦術の手解きをしていただけませんか?信長様の見事な采配を是非にご教授願いたいのです。お願い致します!」
(ええっ…そんな…それじゃあ、信長様が休む時間がなくなっちゃうよ!?)
若い大名は信長様に心酔しきっているようで、熱い眼差しを注いでいる。
「あの、信長様、少しお休みになられた方が…さすがにお疲れではないですか?」
傍らでそっと袖を引くと、信長様は意外そうに私を見る。
「疲れてはおらん。この程度で疲れるような俺ではない。戦術など座学でどうこうなるものでもないが…夜までの暇潰しにはなるだろう」
「ありがとうございます!では早速に…」
(えっ…もう?本当に休む暇もないっ!うぅ…私だって信長様とお話したかったのに…)
嬉々として信長様を案内しようとする若い大名を、つい恨めしげな目で見てしまう。
そんな私のモヤモヤする気持ちを知ってか知らずか、信長様達はさっさと行ってしまわれて、私は引き止めることもできず、その背中を見送るしかなかった。
「信長様…」
「相変わらず疲れ知らずだな、御館様は…って、おいおい、朱里、お前の方が疲れた顔してるじゃねぇか!大丈夫か??」
慶次は心配そうに私の顔を覗き込んだ。隣にいた三成くんもまた、私を案じるような様子を見せる。
「っ…ごめん、慶次。信長様のご無事のお姿を見たら、何だか気が抜けちゃったみたい。お帰りをお待ちしてる間、本当に心配で心配で…堪らなかったから…」
「朱里……」