第103章 旅は道連れ
一揆を鎮圧した信長達は、村の被害状況を調べた後で城へと戻った。
朝、知らせを受けて慌ただしく出陣し、城に帰り着いた時には昼を過ぎていたが、信長の表情に疲れの色は見られなかった。
「信長様っ!」
城門を潜り、馬を降りた一行に朱里は駆け足で走り寄る。
着物の裾が乱れるのも気にせずに駆けてくる姿に、信長はふっと口元を緩めた。
「朱里っ!」
「信長様っ!お帰りなさいませ!あ、あのっ、お怪我などは…?大丈夫、ですか?」
はぁはぁ…と息を荒げながら傍へ寄り、不安に揺らぐ瞳で見つめながら信長の腕に縋りつく朱里に、信長はぐっと胸を締め付けられる思いがする。
僅か半日ほどの間に、こんなにも心配させてしまったのかと……
「大事ない。どこも怪我などしておらん」
「本当に?どこも?っ…よかった…」
ほっと安堵の息を吐きながらも、落ち着きなく視線を泳がせているのは、言葉だけでは無事を信じられない気持ちがあるからに違いなかった。
「そんなに心配だったのか?この俺が一揆の鎮圧ごときで怪我などするはずがなかろう?」
「それはそうですけど…でも、やっぱり心配で…」
「ふっ…愛らしいことばかり言うな。今すぐ、この場で口付けたくなる」
「っ…そ、それはダメっ…」
信長様の目が急に熱を帯びたように思えて、慌ててしまう。
ここはまだ外、兵達も多数いるのに……
「おーい、俺達もいるの、忘れてないかぁ?」
「朱里様、ただいま戻りました」
「慶次っ!三成くん!お帰りなさい!二人も怪我はない?」
二人の姿を見て駆け寄ろうとした私は、信長様に腕を引かれて引き止められた。
「あっ…えっ、信長様…?」
驚いて信長様の顔を見ると、先程までと打って変わって不機嫌そうな表情をしておられる。
引き止めた私の腕を掴む手は、痛いぐらいに強い。
「えっ…あの、どうしたんですか?急に…」
「………何でもない。中へ入るぞ」
不機嫌そうな表情を隠そうともせず、信長は朱里の腕を掴んだまま歩き出す。
(えっ…ちょっと…信長様、どうしたんだろう?何か気に障るようなこと…あった??お怪我もされてなくてよかったけど…慶次や三成くんの無事も確かめたかったし、もっと話もしたかったのに…)
グイグイと腕を引っ張られたまま、転ばぬように信長様の後をついて歩きながら、私の頭は混乱するばかりだった。