第103章 旅は道連れ
信長の号令で、兵達は一斉に牢人達へと襲いかかる。
その統率された兵の動きと勢いに圧倒された牢人達は、次々に逃げ出し始め、呆気なく総崩れとなった。
慶次は先頭に立って槍を振るい、牢人達を捕らえていく。
最初は及び腰だった大名も、信長の指示の下で、どうにか兵を指揮して混乱を鎮めていった。
「信長様」
別働隊を指揮し、火消しと村人の避難にあたっていた三成が信長達の元へと戻ってきた。
「三成、首尾は?」
「火は消し止めました。村人達は避難させ、怪我をしている者には手当てをしております」
「よし。では、それが一段落したら引き揚げるぞ。村の後始末は、貴様が指揮して速やかに致せ。よいな?」
信長は、隣にいた大名にあっさりと命じると、被害の状況を見るために馬から降りてさっさと歩み始める。
「は、はいっ…あ、お、お待ち下さい…信長様、私も参ります」
大名は信長にすっかり心酔してしまったようで、自分も慌てて馬を降り、先を行く信長の背中を尊敬の眼差しでうっとりと見つめながら追いかけていく。
その様子を見ていた慶次は、愉快そうに快活な笑い声を上げた。
「ははっ!さすがは御館様だな。相変わらず隙がないねぇ」
「はい。見事な御采配でした。被害も最小限で食い止められました。しかし、牢人達がこのような狼藉を働くのは、この地に限ったことではありません。信長様が天下布武を成し遂げられ、戦のない世が実現したことで、仕える家を失い、行き場を無くした者もできてしまったということですね…」
一揆を速やかに鎮圧し、被害を少なく抑えたというのに三成の顔色は冴えない。
「戦乱の世でも、主君や領地を失うことはあるだろ?ある日突然、城を追われることだってある。人生、思うようになることばかりじゃない。堕ちていくことに甘んじるか、そこから這い上がるかは、自分次第だ。御館様は正しい道を行かれている。戦のない世の中は皆が望むところだ」
「慶次殿…貴方は…」
慶次の経歴に思い至ったのか、三成が顔を曇らせたのを見て、
「ま、そうは言っても牢人達の処遇は解決しないといけない問題ではあるな!御館様なら、とっくにお考えかもしれねぇが…」
重くなりかけた空気を吹き飛ばすかのように豪快に笑う慶次だったが、その笑顔の裏側にはどこか影があるように、三成は思わずにはいられなかった。