第103章 旅は道連れ
手早く軍備を整えた信長達は、城を出て一揆が起きている領地へと向かう。
三成が集めた情報では、牢人達の総勢は数十名、各地を転々とし、近隣の村々を襲っては食料や金目のものを略奪している輩だという。
(戦で主家を失い、仕官も叶わず、生きるに困った者どもか…己が生きるために他者を蹂躙する…戦乱の世の常とはいえ、無辜の民を苦しめることは許されん)
「信長様っ、あれは…」
三成の険しい声に前方を見据えると、山の間から煙が上がっているのが見えた。
「村に火を放ったか…急ぐぞ、三成、慶次」
「はっ!」
馬を駆けさせて村の入り口に辿り着くと、そこは逃げ惑う村人達で混乱していた。
火の手が上がっている家から這い出る者、刀を手にした牢人達に追われて逃げる者…彼方此方で悲鳴が上がっている有り様だった。
「の、信長様、これはいかに…」
予想以上の酷い有り様に困惑した様子の大名は、落ち着きなくその場でおろおろとしている。
「たわけ!貴様がそのような有り様でどうする。すぐに火を消せ。村人達は村の外へ避難させよ。これより隊を二つに分ける。一隊は鎮火と村人の保護にあたれ。もう一隊で牢人どもを討ち取る。俺が指揮を取るゆえ、貴様もついて来い」
「は、はいっ!」
信長は手早く隊を二つに分けると、一方の指揮を三成に任せ、自身は大名と慶次を引き連れて一直線に村の中へと駆け入った。
突如現れた武装した武士の一団に、村の中を我が物顔で暴れ回っていた牢人達の顔色が変わる。
だが、隊を二つに分けたために、数では牢人達の方が勝っているようで、先頭に立つ信長の姿を見ても怯むことはない。
略奪を続ける者、逃げ惑う村人を追い立てる者…牢人達の狼藉の数々は目に余るほどだった。
「何だ、てめぇら!」
逃げようとする村の女を羽交い締めにして、その身体をいやらしく弄っていた男が信長達に向かって吠える。
信長は不快そうに眉を顰め、馬上から男を蔑んだ目で見下ろす。
戦場においては『乱取り』と称して攻め入った相手国の村を襲い、食糧や金品を奪うことが横行する。
乱取りは物に止まらず、人にも行われる。
若い女は犯され、奴隷や遊女として売られるのが常だった。
信長は織田軍には乱取りを許しておらず、乱暴狼藉を固く禁じる制札なども出し、厳しい軍規を定めていた。