第103章 旅は道連れ
慶次に揶揄われながらも何とか食事を終えて一息ついていると、何やら部屋の外が騒がしくなってくる。
(ん?何だろう…騒々しいな)
「申し上げます!西の領内で牢人達の一揆が起きたとの知らせが…村々を襲い食料などを強奪している模様です!」
「な、何だと!?一揆なんて、そんな…」
部屋へ駆け込んできた家臣は息を荒げながらも、その場に平伏して大名の指示を待っている。
けれど、若い大名はこのような状況の対応に慣れていないのか、一揆と聞いただけで動揺してしまったようだ。
「一揆だなんて、どうすれば…ま、まずは状況の把握か…?いや、それより取り敢えず兵を出して…」
「殿っ!お早くご決断を!」
「うっ…」
(一揆だなんて、どうしよう…大変なことになっちゃった)
先程までの穏やかな朝のひと時が一変し、室内を緊迫した空気が占める。
部屋の外でも家臣達が行き交う足音が大きく響いていて、それを聞いているだけでも嫌な胸騒ぎがして仕方がない。
「落ち着け。牢人どもの一揆なら、さほどの規模ではないだろう。急ぎ軍備を整えよ。早急に兵を出し、一気に叩け」
ピリピリとした空気を引き裂くように、信長様の低く冷静な声が室内に響く。
その声に、大名は弾かれたように勢いよく顔を上げる。
「おぉ…信長様も私と共にこちらで指揮を取っていただけるのですか?それは心強い」
「たわけ、大将が城で呑気に構えていてどうする。出陣して指揮を取れ。俺も共に行ってやるから、さっさと準備しろ。三成、情報の収集を急げ」
「はっ!」
「の、信長様っ…」
(出陣って…戦になるの?信長様も戦われるの?こんな旅先で何の用意もないのに…)
「案ずるな、朱里。一揆の討伐などすぐに済む。貴様はこの城で待て」
「は、はい。あの、私にも何かできることはないですか?ただ待ってるだけなんて…」
「貴様を連れて行くわけにはいかん。この城におれば安全だ。すぐに戻る」
「でも……」
「朱里」
ーちゅっ…
「ぁっ…信長さま…?」
言い縋る私を宥めるように額に柔らかな唇が押し付けられる。
軽く触れてすぐに離れていった唇の感触に、ハッとして信長様の顔を見ると、ふわりと穏やかに微笑まれた。
「あっ……」