第103章 旅は道連れ
視察から戻られた信長様に今朝初めて会ったのが、今なのだ。
(昨日と変わらず優しくて甘々なんだけど…何だろう…上手く言えないな)
「……何を考えている?」
「えっ…いえ、何も…ちょっ…やだ、近いですよ、信長様」
朝餉の膳を前に隣に座った私の顔を、信長様は鼻先が触れ合うぐらいの距離で見つめてくる。
「んっ…もぅ…一体どうなさったのですか?今朝の信長様は変ですよ?」
「愛しい妻に触れて何が悪い?貴様は俺のものだろう?」
「そ、そうですけど…そんなこと、あんまり人前で言っちゃ駄目です。ふ、触れるのも…駄目。恥ずかしいから…」
「何を恥ずかしがる必要がある。いつものことだろう?旅先でも人前だろうが関係ない。こうして見せつけておかねば…油断も隙もないからな」
「え?」
最後の一言が、信長様には珍しくボソッと呟くように言われたせいで聞き取れなかった。
「え?何て言いました、今?」
「……………何でもない。ほら、早く食え。朝餉が済んだら、早々に出発するぞ」
プイッと視線を逸らした信長様は、もう朝餉の膳に箸を伸ばしていて…周りの皆も食事を始めていたために、それ以上は聞けない雰囲気だった。
(何だかモヤモヤするけど…旅はまだ始まったばかりだし、些細なことを気にしても仕方がないよね。よし!私も早く朝餉、食べちゃおう!)
目の前の膳からは、ホカホカと温かい湯気と美味しそうな匂いが立ち上っており、見ているだけで食欲が唆られる。
(わぁ…美味しそう)
昨夜は宴でたくさん飲んだり食べたりしたが、不思議と朝になればお腹は空くのだ。
手にした味噌汁の良い匂いに、思わずグーッと小さくお腹が鳴ってしまった。
「!?」
(わわっ…どうしよう、聞こえてないよね??)
「ん?何だ、可愛い音だなぁ」
(うっ、慶次っ…聞こえちゃってた!)
「腹の音まで可愛いなんてな。さすがは御館様の姫さんだな!」
「や、やめて…言わないで。恥ずかしいから…」
かあっと顔が一気に熱を帯びて、耳まで熱くなる。
少し離れた席の慶次に聞こえてしまったのなら当然のこと、隣の信長様にも聞こえてしまったかと、恐る恐る様子を窺うと……
「さっさと食え。腹の虫がそれ以上騒がしくなる前にな」
ニッと口角を上げて意地悪そうに笑われてしまった。
(あぁ…朝から色々恥ずかしい…)