第103章 旅は道連れ
「んっ…信長様…人前で…ダメです…」
か細い声で訴える私に、信長様の顔が近づいて…チュッと頬に口付けられた。
「あ、やんっ…」
チュッチュッと頬を啄む口付けは止まらず、信長様の唇は妖艶な笑みを浮かべながら私の頬を滑っていく。
信長様の隣に立つ大名の方がチラチラと私達を見るのが恥ずかしくて堪らなかった。
この城の大名は家督を継いだばかりの若者で、まだ妻も娶っていないらしく、昨夜も私と信長様を随分と眩しげな目で見ていたのだった。
(んっ…どうしてこんな…見せつけるみたいに…)
「の、信長様っ…やっ…」
甘い空気に流されてしまいそうになりながらも、精一杯の力で信長様の身体を押し返す。
「っ…はぁ…はぁ…」
蕩けた顔を見られるのが恥ずかしくて、信長様をキッと睨んで見せたけれど……涼しい顔でサラリと視線をかわされてしまう。
「さ、さあ、どうぞ朝餉の用意もできておりますから、お、お席へ…」
ほんのりと顔を赤くした大名がしどろもどろになりながら信長様を促す。
「来い、朱里」
少し距離を取っていた私を、信長様は腰に腕を回して再び引き寄せる。
「ちょっ…ちょっと、信長様?」
いつになく強引で独占欲を露わにする信長様に、戸惑いを隠せない。
ぴったりと密着したせいで、信長様の高めの体温と芳しい香の香りに触れて、くらくらと眩暈がするような心地がした。
(っ…こんなの、朝から刺激が強すぎる…)
常日頃から人目を憚らず思うままに振る舞われるのが信長様であり、こうして直接的に愛情を表現して下さるのは嬉しいのだけれど…さすがに昨日初めて会ったばかりの大名の前、しかも他人の城でイチャイチャするのは恥ずかしかった。
信長様は元々強引なところがある方だが、公私の別ははっきりとさせる人である。傘下の大名の城とはいえ、他人の城でこんな風に振る舞われるのには何か理由があるのかもしれなかった。
(何だかわざとらしく意地悪されてるような気がする。気のせいだろうか。昨日の夜、私、何か気に障るようなことしちゃったのかな…うぅ、全然記憶にないよ)
今朝は朝餉の前に大名の方と領内を視察されるということで早朝より出掛けられたから、信長様とはお話できなかったのだ。
昨夜の激しい情事のせいで明け方近くになってようやく眠れた私は、情けなくも出掛ける信長様をお見送りすることもできなかったのだ。