第103章 旅は道連れ
湖での小休止の後、再び馬を進める。
今宵は織田傘下の大名の城に宿をとることになっている。
越後へは数日かかる旅になり、その間は傘下の大名の城や宿場町に泊まることになっていた。
秀吉さんが事前に抜かりなく手配してくれたおかげで、旅の行程は完璧だ。
今も、大名の領地に入ってすぐ、先触れもしないうちに迎えの一団が現れたのだ。
(さすがは秀吉さん。信長様のことになると一分の隙もない完璧な仕事ぶりだな。あ、もしかして今回も忍びの護衛とか、秘かに付けられてるのかな??)
出発前、慶次と三成くんに長々と注意を施していた秀吉さんの必死な姿を思い出してしまう。
『いいか、三成。くれぐれも御館様を頼むぞ。勝手な自由行動は慎まれるように…お前も言うべきことはしっかり物申すんだぞ。
慶次!御館様のお傍を片時も離れずお守りしろよ。単独行動をなさらぬようにしっかり見張って…お前もふらふらするなよ!』
(自分がお供できないのが相当歯痒かったみたいだな、秀吉さん)
信長様のお傍を片時も離れたくない秀吉さんは、出発ギリギリまであれやこれやと信長様の世話を焼き、当の信長様からはうんざりした顔をされていたのだけれど……
「信長様、ようこそお越し下さいました。お会いできて光栄でございます。お疲れでございましょう、さぁさぁ、我が主もお待ちしておりますので早速に城の方へ」
「ああ。出迎え、大義である。世話になるな」
「勿体なきお言葉!信長様にお泊まりいただけるなど、末代までの誉れでございますっ」
出迎えに来てくれた大名の家臣の方は、憧れと畏敬の眼差しで信長様を熱っぽく見つめながら声を震わせている。
付き従う家来達からもまた、同じような熱気を感じる。
(すごい熱烈な歓迎ぶりだな。こんな風に領地の人達から熱い視線を寄せられるなんて、信長様はやっぱり凄いな。以前はどことなく近寄り難い雰囲気があって、好かれているというよりは怖がられているような感じだった。けれど…今は少し違う気がする。誰もが皆、信長様に親しみを感じているような…)
信長様が皆に愛されている実感に、嬉しくて頬が緩む。
「……朱里、何を一人でニヤけている?行くぞ。日が暮れる」
「は、はい…あ、ちょっ…待って下さい…」
気がつけば空は茜色に染まりつつあった。
迎えの方の先導のもと、私達は城のある方角へと馬首を向けた。