第103章 旅は道連れ
「朱里様、どうかなさいましたか?」
「っ…あ…三成くん…」
慶次と信長様の様子を見比べてモヤモヤした思いに囚われていた私に、三成くんが気遣わしげに声をかけてくれる。
「やはりお疲れなのでは…そうだ、何か少し召し上がりますか?疲れた時は甘いものが良いとも申しますし…確か、荷物の中に菓子なども入れてあったように記憶しております。しばしお待ちを…」
「えっ…や、そんな…大丈夫だよ、三成くん。本当に…そんなに疲れてないから気を使わないで…って、んぐっ…ンンッ!?」
(な、なに、これ…えっ、甘っ…んっ…)
いきなり唇に押しつけられた固くて小さな甘いもの…それは金平糖だった。
隣で三成くんと私の会話を黙って聞いておられた信長様が、何を思ったのか、懐から取り出した金平糖をいきなり私の口に押し込んだのだった。
「んっ…ちょっ…何するんですか、信長様っ!」
口内に広がるほんのりとした甘さに一瞬にして心を奪われつつ、口をモゴモゴさせながら訴える。
「『疲れた時は甘いもの』なのだろう?ならば、特別に俺の秘蔵の金平糖を分けてやろう」
鷹揚に言いながら、ずっしりと金平糖が入っていると思しき巾着袋を手にして、自分も数粒まとめて口に放り込んでいる。
(あっ…それ、食べ過ぎじゃ…秀吉さんが見たら絶対怒るやつだ)
「んっ…いつの間にそんなにたくさん持ってこられたんですか?秀吉さんに見つかったらお説教ですよ、それ」
「ふっ…貴様らが言わねばバレはせん。長旅には金平糖が必要不可欠なのだ。秀吉の目を盗んで懐に忍ばせることなど造作もないわ」
俺様な子供のように堂々と言い放つ信長様には、苦笑いをするしかなくて……
「言いませんけど…程々になさって下さいね」
「程々に…か。案ずるな、旅先だとて羽目を外すような真似はせん。俺を誰だと思っておる?」
(金平糖のことになると、子供みたいになられる信長様、です)
心の中で秘かに突っ込みながらも、そんな子供みたいな信長様を可愛いと思ってしまう。
話している間にも、口の中に押し込まれた金平糖は甘くゆっくりと溶けていく。
信長様の子供のような無邪気な笑顔を見ていると、金平糖のように心の中まで甘く溶かされていくようだった。