第103章 旅は道連れ
濡れた手拭いで汗を拭いながら、湖面の揺らぎを見つめて一息吐いていると、遠くから子供達の賑やかな声が聞こえてくる。
(この辺りの村の子供達かしら…)
子供達はわいわいと楽しげに話しながらこちらの方へ歩いて来る。
手には釣り竿や魚籠を持っており、この湖で釣りをしていたようだった。
子供達は私達の姿を見ると足を止めて、恐る恐るといった様子でこちらの様子を窺っている。
(怖がらせてしまったかしら?大丈夫だと声をかけてあげなくちゃ…)
「おーい、お前ら、この辺りの村の子かぁ?この湖、何が釣れるんだ?」
子供達を安心させるため声をかけようとした私を、慶次の大声が遮る。
その大きな声にびっくりして慶次を見ると、既にニコニコと屈託なく笑いながら子供達の方へ歩き出しているところだった。
「け、慶次!?」
大柄で声も大きな慶次に子供達が怯えてしまうのではないかという私の懸念に反して、慶次は子供達に気さくに話しかける。
「おっ、たくさん釣れてるなぁ!コイにフナか…お、ドジョウもいるのかぁ!大漁じゃねぇか」
「今日はいっぱい釣れたんだよ!晩飯のおかずに、母ちゃんに持って帰るんだ」
「そうか、そりゃ、母ちゃん、喜ぶぞぉ。お手柄だな!」
慶次の笑顔と人懐っこい性格は子供達の警戒心を解かし、あっという間に打ち解けてしまったようだった。
子供達は次々に慶次に話しかけ、楽しげな声を上げていた。
「慶次って、誰に対しても気さくで飾らない人なんですね」
「………あぁ」
(あれ?私、何か変なこと言ったかな…?)
慶次と子供達の様子を一緒に見ていた信長様から、予想外に素っ気ない返事を返されて、戸惑ってしまう。
「……信長様?」
「……何だ?」
不機嫌そうにボソッと低い声で返されて、それ以上問うことは躊躇われた。
信長様は、子供達とともに楽しそうな笑い声を上げる慶次を冷ややかにも見える目でじっと見ておられたが、その表情からは感情が読み取れなかった。
(信長様、どうされたのかしら…慶次のことで何か思うところがおありなのかしら?そういえば、慶次が長く織田軍を離れていた理由って何なのだろう?もしかして信長様と何かあって…いや、でもそれじゃあ、此度の供に慶次を選ばれたりはしないはずだし…)