第103章 旅は道連れ
梅雨が明けて、陽射しが眩しいほどにカラリと晴れたその日、私は信長様とともに越後へ向かう馬上にあった。
雨に降られる心配はないが、照りつける陽射しは日頃城の中で過ごすことの多い身には些か厳しいものもある。
「朱里、辛くはないか?疲れたら遠慮せずに言え。越後までは長いからな」
揺れる馬上で、ふぅっと小さく息を吐いた私に、信長様は目敏く気付いて声をかけてくれる。
「はい、ありがとうございます」
「朱里様、一度、休憩致しましょうか?」
後ろに控えていた三成くんが、心配そうに声をかけてくれる。
「ありがとう、三成くん。でも、遅れてしまうと悪いから…」
日暮れまでには今宵の宿へと着かねばならない。予定外の休憩で旅程が遅れてしまうのは申し訳なかった。
「大丈夫ですよ。ちょうどこの近くに水場があるので、そろそろ馬たちを休ませたいと思っていたところでしたので…信長様、よろしいでしょうか?」
「構わん」
鷹揚に頷く信長様に向かって、三成くんはニッコリと笑ってみせると、先に立って先導してくれる。
気を遣わせてしまったようで申し訳なかったが、城を出てから馬に揺られ続けた身には、ここでの休息は正直有難かった。
「わぁ…綺麗な湖ですね」
三成くんの案内で着いた先には湖があり、澄んだ湖面が太陽の光を浴びてキラキラと美しく輝いていた。
馬を降りて湖岸に近づいてみる。穏やかな水面は、見ているだけで心が凪いでくるようだった。
「朱里…」
「あ、はい…っつ!ひゃぅっ…」
首筋に、冷んやりと冷たく濡れた感触がして、驚いてびくりと身体が跳ね上がる。
(なっ、何っ…何なの…!?)
慌てて首に手をやると、濡れた手拭いが手に触れた。
驚いて信長様を見ると、悪戯が成功した子供のような無邪気な笑顔をなさっていた。
「信長様っ…もぅ、急に…びっくりするじゃないですか!」
「暑くて身体が火照っている時は、首筋を冷やした方が早く体温が下がって効果的なのだ。くくっ…変な声を出しおって」
「だって、びっくりしちゃって…でも、ありがとうございます、信長様」
いきなりで驚いたけれど……湖の水で信長様が自ら冷やして下さったのだろう、冷えた手拭いは暑さに火照った身体にはとても気持ちが良くて、すぅーっと身体が冷えて整っていくようで有難かった。