第103章 旅は道連れ
「えっ、信長様、越後へ行かれるのですか??」
それから数日経ち、いよいよ梅雨も本番を迎え、毎日が雨模様となったある日のことだった。
執務中の信長様にお茶を持っていった私に、信長様は梅雨が明けたら越後へ視察に行く、と仰ったのだった。
「ああ。先頃、謙信から文が届いた。『一度、越後に来い。俺と勝負しろ。決着をつけてやる』とな」
「えええっ!?」
(そ、それは果たし状では……)
「長旅にはなるが、あちらの情勢も一度見ておきたいと思っていたところだ。先日の吉法師の初節句祝いの礼もせねばならんしな」
「ふふ…鯉のぼり、吉法師も気に入ったみたいでしたね」
赤子の吉法師には、鯉のぼりが何なのか、まだ充分には分かっていなかっただろうが、それでも、風に泳ぐ優雅な姿を見てきゃっきゃっと楽しげな声を上げていたのだ。
「佐助…あの奇妙な忍びには、あやつに最適な礼の品を用意してやろう。くくっ…」
(……ん?何、その意味深な笑いは…)
「………………」
「何だ?何か言いたそうだな?」
「…あの…信長様、越後へは、その…お一人で行かれるのですか?」
「ん?いや、此度は三成が供をする。上杉には謙信の右腕と言われている軍師がおる。三成も織田が誇る軍師だからな。色々と学ぶこともあるだろう。それと、貴様は会ったことはないだろうが…慶次…前田慶次を連れていくつもりだ」
「前田…慶次殿?」
「前田家は織田に仕える古参の家だが、慶次は訳あって長らく織田を離れていたからな。俺が貴様と夫婦になった頃には既に城におらなんだゆえ、貴様は知らぬだろう。此度、久方ぶりに帰参したゆえ、貴様にもまた会わせる」
「はい!お会いするのが楽しみです。それで、あのぅ…」
(うぅ…私も一緒に行きたい、連れて行って欲しい…なんて言ったら我が儘が過ぎるだろうか…でも、佐助くんや謙信様にもう一度会いたい)
「………行きたいのか?」
「は、はいっ…えっ?」
(やっぱり信長様だ…言わなくても私の心の中なんてお見通しなんだわ)
「ふん…………」
「あ、あの…お城のことや子供達のこと、学問所のこともあるのに無責任な、と思われるかもしれないですけど… 私も佐助くんにお礼が言いたいですし、謙信様にもまたお会いしたいです。それに何よりも、信長様と旅がしたい…一緒に行ってはダメですか?」
「っ……」