第102章 薫風に泳ぐ
「別にいいだろう?貴様の惚けた顔が見たくなったのだ」
艶然と笑みながら、私の頬を手の甲でするりと撫でる。
触れられたところから、じわりと熱が広がっていくような何とも言えない心地良さを感じてしまう。
「んっ…ふ…良いのですか?秀吉さんに叱られちゃいますよ?」
「案ずるな、すぐ戻る。貴様を堪能したら…な」
「えっ……」
頬を撫でていた手で、クイッと顎を持ち上げられると、ゆっくりと信長様の顔が近付いてくる。
ーちゅっ…ちゅうぅ…
ふわりと柔らかく重ねられた唇に、心の臓がドキッと音を立てる。
触れ合った瞬間に、信長様の香の香りがふわりと鼻孔を擽って、胸の高鳴りに拍車をかけるようだった。
「んっ…ふ…あっ…」
(信長様…急にどうされたんだろう…っ…朝も触れ合ったばかりなのに…)
今朝も目覚めてすぐに求められ、時間を忘れそうになるぐらいに愛されたというのに…今もまた、口付けだけで蕩けてしまいそうになる。
角度を変えて何度も重ねられる信長様の唇は熱くて、触れただけで溶けてしまいそうだった。
時折、舌先でチロチロと擽るように上唇を舐められると、頭の奥が痺れるような快感が走る。
(ん…気持ちいい…もっと深く…欲しい)
羞恥よりも快感が勝ってしまい、もっと深く重なりたくて信長様の背中に手を回して、ぎゅっと抱き着く。
朝の爽やかな空気の中で、はしたないとは思いながら、もっと深い繋がりが欲しくて、強請るように身を寄せる。
唇を擦り合わせながら、信長様は愉しそうに口の端を上げる。
深く求める気持ちを見透かされているようで恥ずかしかったが、今更離れられない。
信長様が私の腰に腕を回し、益々強く抱き締めたからだ。
「んっ…ふぅ…あ、あぁ…」
「ふっ…良い声だな。貴様の艶やかな声も蕩けた顔も、全部唆られる。もっと寄越せ」
耳元で甘く囁く信長様の声に、酔ったように身体の力が抜けていく。
このまま身を委ねてしまいたい……まだ朝で、一日が始まったばかりだと言うのに、そんな風に思ってしまう。
抱き締められたまま、その場にゆっくりと押し倒されていくのを、抗うことなく受け入れた、その時……
「御館様ーっ!どちらにいらっしゃいますかぁー?御館様ーっ?」