第20章 大晦日の夜
「わぁ、いつも以上に人が多いですね!」
城下はいつもより人出が多く賑わっていて、行き交う町の人達も気忙しいなかにも、新たな年を迎える喜びが満ち溢れていた。
城下の市には、大小様々なしめ縄やお正月ならではの食材なども所狭しと並んでいて、活気のある呼び声が行き交っていた。
信長様が直接治められている、この安土では、誰もが日々の心配をすることなく自由に思うままに暮らせているように感じられて、改めて信長様の偉大さを認識させられる。
「貴様、はしゃぎ過ぎて迷子になるなよ」
信長様が苦笑しながら、私の手を取ってギュッと握ってくれる。
繋がれた手から信長様の優しさが伝わってくるようで、嬉しくなって指を絡めてそっと握り返した。
「何か欲しいものはあるか?」
私の顔を覗き込みながら問うてくださるその顔はどこまでも優しい。
「いえ、身に付けるものは手に余るほど頂いておりますし…
あっ、でもお団子は食べたいです!」
「くくっ、色気より食い気か?
そういうところもまた愛らしいんだが、な」
プニュっと頬を摘ままれて、掠めるように唇が奪われる。
一瞬の出来事に、心臓がドキンと音を立てて反応した。
口づけ以上を期待して身体が熱くなる自分が恥ずかしくて、きっと赤くなっているであろう頬を押さえて下を向く。
「…では、好きなだけ団子を食え。
何なら買い占めてやってもいいぞ」
「もうっ、それは駄目ですっ!」
他愛もない会話が幸せで、今この時が永遠に続けばいいのに、と願う。
信長様の横で信長様の為だけに笑っていたい……
信長様も同じように思ってくださっているだろうか……