第20章 大晦日の夜
千代から新年用の花材を預かって、天主に上がる。
(信長様、今日はいらっしゃるかな?)
年の瀬は特に政務が忙しいらしく、昼間は近隣への視察に出られたり、夜は遅くまで書状を書いておられたり、と最近ゆっくりお話もできていなかった。
「信長様、いらっしゃいますか?」
返事がないので、襖をそっと開けて中を窺うが人気はなく、部屋の主はだいぶ前から不在らしく、部屋は寒々としていた。
(……今日も視察に行かれてるのかな…逢いたかったな)
寂しい気持ちを我慢して、持ってきたお花を活け始める。
忙しい信長様の目を楽しませるような、お正月らしい華やかなものに、とあれこれ考えて活けてみる。
漸く納得のいく仕上がりになった時……
「…朱里か、来ておったのか」
襖を開けて信長様が入ってくる。
「お帰りなさい、信長様!」
「ああ、朝から視察で出ていたのだが…花を活けてくれていたのか?華やかで美しいな」
「ふふ、すぐに気付いてくださるなんて嬉しいです。
………これからまたご政務ですか?」
「いや、今日はもう終いだ。
明日からは年始の行事などがあって忙しいが、今日はこの後は予定は入っておらん。
……久しぶりに城下にでも行くか?」
「いいんですか??」
久しぶりの逢瀬のお誘いに心が踊る。
(………けれど、視察から帰ってこられたばかりでお疲れではないだろうか?)
ほんの一瞬、心配で曇った私の表情を見逃さず、信長様は私を安心させるように言う。
「俺も久しぶりに貴様との逢瀬を楽しみたい。
城下も新年の準備で賑わっておるだろう。
視察も兼ねて見に行くぞ」