第101章 妻として母として…その先に
「では手始めに、今日行ったあの村から始めるか…触れを出して村人らを集めねばならんな。寺にも声をかけて、協力してくれるよう頼んで…それから……」
ぶつぶつと独り言のように言いながら、早くも思案を始めた信長様に、少し驚いてしまう。
こんなにとんとん拍子に話が進むとは思ってもいなかった。
自分で言い出したこととはいえ、信長様の決断の早さに少し躊躇いを覚えてしまう。
「あ、あの…信長様、本当に良いのですか?この話、進めてしまっても…?」
「くくっ…自分から言い出しておいて何を言う。貴様が『やりたいこと』なのだろう?ならば、やるに決まっておる。俺にとっても益のあることだしな。具体的なことは、追々に決めていけばよい」
ニッと口角を上げて自信たっぷりに笑う信長様は、男らしくて頼もしくて…目が離せなくなるぐらい素敵だった。
「ありがとうございます、信長様」
「単なる思いつきでないことは、貴様の顔を見ていれば分かる。『やりたいこと』が『民達に学びの場を作ること』とは、予想外で些か驚いたが…貴様らしいと言えば貴様らしい。
いつも自分のことより周りの者のことを優先できる貴様のその優しさは好ましいものだ。
俺は争いのない、皆が思うままに生きられる国を作りたい。国を支えるのは民だ。民達の力がこの国の力となるのだ。
これからは、皆に平等に学ぶ機会が与えられるような世にならねばならん」
「信長様…」
広く先を見据える信長様の考えに、改めて驚かされる。
私は単純に、皆が読み書きができるようになれば困り事が減るのではないかと思っただけだったのだが、信長様は常にこの国の行く末を見据えていて的確な判断をなさるのだ。
信長様の決断力の早さと実行力で、私の思いは早くも形を結ぼうとしている。
(信長様はいつだって私の思いを理解してくれて、導いてくれる。信長様に甘えてばかりじゃダメ。私も自分にできることをしたい…)
「信長様…学問所ができたら、私もお手伝いをしてもいいですか?言い出したのは私だから…自分でちゃんと責任を持ってやり遂げたいのです」
「ふっ…貴様はやはり面白いな。天下人の正室の身で自ら学問所の運営に携わろうと言うのか?くくっ…よかろう、思うようにやってみるがよい」
「ありがとうございます!」