第101章 妻として母として…その先に
「えっ…隠し事って、そんな大袈裟なものじゃないですって!…っんっ…ちょっと、信長様?? あ、ンッ…やっ…」
ーちゅううぅ……
「んっ…ふぅ……」
下から伸びた手に、グッと後頭部を引き寄せられたかと思うと、反論を封じるように唇を塞がれる。
あっと思う間もなく唇を割って入ってきた熱い舌は、ゾクリと震えるような妖艶な動きで私の歯列をなぞり、口内を開かせた。
「ぅ…んっ…ふっ…」
鼻にかかったような蕩けた吐息が口の端から漏れてしまう。
口内を蹂躙する甘くて強引な舌の動きに戸惑い、必死で応えながらも、信長様から目を逸らすことができなくて……
「………阿呆、目を開けたままの奴があるか。くくっ…全く、貴様は他愛もないな」
「んっ、もうっ…信長様がいきなり過ぎるんです……」
チュッとわざとらしい音を立てて唇を離した信長様は、美しい微笑を浮かべてゆっくりと唇を舐めている。
(ぅ…色っぽい…)
信長様の溢れる色気にドキドキと胸が煩く騒ぐ。
「………で?言う気になったか?」
「えっ…や、それはそのぅ…本当に大したことじゃなくて、ただの独り言だったんですけど…」
「言え」
有無を言わさない信長の圧力に、それ以上言い返すことは無理そうだった。
「本当に大したことじゃないから…笑わないで下さいね?」
「内容によるな」
「うっ…(話し辛いな、もぅ…) あの…今、私、すごく幸せで…戦もなくなって信長様と子供達と穏やかに過ごせて、幸せ過ぎて…このままじゃいけないんじゃないかと…」
「は?貴様、何が言いたい?」
「幸せに甘んじて日々漫然と過ごしているのは良くないんじゃないかと思ってしまったんです。信長様は天下の平穏を守るために日々お忙しくされているのだから、私も何かしなくちゃ…って」
「俺は俺の為すべきことをしているだけだ」
「はい。だから私も、何か自分にできることをしたいと思って…」
「政は男のすることだ。女子は関わらずともよい」
「政のお役に立てることでなくてもいいんです。妻として織田家の奥を守ることは勿論ですけど、私自身も何か始めたいというか…」
上手く言えないが、妻として母としての役割ではない何かが欲しかった。
それは今急に思いついたわけではなく、以前から漠然と考えていたことでもあったのだ。