第100章 君に詠む
連日、和歌の修練に明け暮れる私を疲れさせぬようにと思われたのか、ここ半月、信長様から深く求められることはなかった。
そんな信長様の心遣いは私を大事に思ってくれているからだと分かってはいたが、それは嬉しい反面、焦ったくて物足りなくて…私はずっともどかしい気持ちを抱えながら、どうしようもなく不安だったのだ。
「んっ…信長さまっ…私も…もっと触れて欲しかったの。あっ…んっ…ずっと…ずっと我慢してたから……んっ…信長さまに触れて欲しくて…抱いて…抱いて欲しくて…あぁっ…」
「くっ…朱里っ……」
いつもと違って己の感情を曝け出し、大胆に求める朱里の姿に信長の身体は急速に昂っていった。
朝廷からの求めに応じて、朱里を伴って上洛することを決めた己の判断を後悔はしていない。
それでも、朱里に慣れぬ和歌の修練を命じ、充分に時間もない中で連日無理を強いたことには罪悪感も感じていた。
信長の求めに応えようと、嫌な顔もせず一生懸命頑張る朱里はいじらしくて、ますます愛しさが募るばかりだったのだが……せめて朱里を疲れさせぬようにと、信長は歌会が無事終わるまで己の欲を封印することにしたのだった。
だが、思うように朱里に触れられぬ日々は予想以上に堪えた。
『褒美をやろう』などと鷹揚に言いながらも、本音を言えば自分の方が朱里に早く触れたくて堪らなかったのだ。
(朱里のことになると、俺は途端に余裕がなくなる。だが、朱里も俺と同じように…俺を欲してくれていたというのなら…)
「っ…朱里っ…今すぐ貴様を抱きたいっ…」
「ぁっ…んっ…」
耳元に甘く切ない囁きを注がれて、腰の奥がズクッと鈍く疼く。
力が抜けて足元から崩れ落ちそうになる私の身体を、信長様の鍛えられた逞しい腕が支える。
あっと思う間もなく膝裏に手が回り、横抱きに抱き上げられてしまった。
慌てる私にお構いなしに、信長様は私を抱いたまま、迷うことのない足取りで奥の寝所へと向かう。
「信長様っ……」
そっと見上げると、柔らかく微笑んだ信長様は、私の頬にちゅっと口付けを一つ落とす。
柔らかいその笑顔に、胸がキュンっとなる。
これから始まる、激しくも甘い時間への期待に自然と熱くなる頬を、私は、そおっと信長様の胸に擦り寄せた。