第100章 君に詠む
「万事上手く事が成ったら褒美をやる、と言っただろう?頑張った貴様には、とびきりの褒美をやらねばな」
信長様は至極嬉しそうに口の端を上げ、ニッコリと愉しそうな笑顔を見せる。
「あ、あの…信長様?……っ!?んっ…やっ…あぁ…」
ーちゅっ…ちゅうぅ…じゅっ…
グイッと後頭部を引き寄せられて、深く唇が重なる。
隙間なく塞がれて吸い上げられると、息が苦しくて頭の中が真っ白になってしまう。
息苦しさから逃れたくて、ピタリと重なった信長様の身体を押し返そうとするが、力の差は歴然でビクリともしなかった。
「んんっ、っ、うっ…やっ、ダメっ…こんなところで…」
「はっ…こんなところとは?貴様を愛でるのに場所など…俺はどこでも構わん」
「んっ、そんなっ…」
(お寺の中でこんなこと…恥ずかしいし、誰か来たらどうしよう…)
夜も更けて人の気配も途絶えている時刻とはいえ、いつお寺の人が部屋の前を通りかかるかも分からないのだ。
特別信心深い方ではないが、寺の中で淫らなことをするのは、やはり不謹慎な気がして、何となく後ろめたかった。
「や、いやっ…んっ…ふ…」
腕の中で身を捩る私を、信長様は益々強く抱き竦める。
濃厚な口付けをしながら、背中に回った手は身体の線をなぞるように艶めかしく触れてくる。
ここ半月ほど深い交わりがなかったせいで、着物の上から少し触れられただけで身体の奥がジクリと疼き始めてしまう。
「ひっ…あっ…んっ…信長さま…」
首筋に熱い唇が押し付けられると、思わず鼻に掛かった甘ったるい声の喘ぎが漏れる。
いつも以上に敏感になっている身体は、既に口付けの先を期待しているかのように熱く火照っている。
「くっ…朱里っ…」
俄かに朱里の首筋から唇を離した信長は、はぁ…っと悩ましげに溜め息を吐く。
「信長様……?」
「………この半月ほど貴様を思うように抱けぬ日々を過ごし、俺の我慢も限界なのだ。そのように煽ってくれるなっ」
「んっ…そんな……」
(我慢して下さってたの?私のために?私が和歌の修練に集中できるように?)
再び、ぎゅうっと強く抱き締められて、腕の中へ囚われる。
痛いぐらいに掻き抱かれても、それすらも信長様の熱情を感じさせるようで、少しも嫌ではなかった。