第100章 君に詠む
(んっ…熱い…蕩けてしまいそう)
信長様の舌が触れたところが、かぁっと熱く火照って、熱で蕩けてしまいそうな錯覚を覚える。
身体から次第に力が抜けてしまい、立っていられなくなって信長様の腕の中へと身を委ねる。
「あっ…信長様…」
力なく凭れ掛かる私を、信長様は逞しい腕でぎゅっと抱き締めてくれる。
背中に触れた信長様の手が、私の身体の線をなぞるようにゆっくりと撫でていく。
その触れ方はゆったりと柔らかいのに、身体の奥の熱をじんわりと煽られるようで落ち着かない。
(んっ…気持ちイイけど…焦ったくて…もっと…もっと触れて欲しいっ…)
「んっ…あ…ん…」
ぎゅっと身体を密着させながら、強請るように信長様を見上げる。
けれど…信長様は私の背中を優しく撫でるだけで、何故かそれ以上深くは触れて下さらない。
「っ…信長さまっ…もっと、触れて欲しい…です」
焦ったくて、我慢できずに強請ってしまった。
「くっ……」
(そんな色っぽい顔で強請られては、我慢が効かなくなるが…)
愛らしく強請る朱里の姿に欲情させられて、今すぐにこの場で押し倒したい欲望に駆られるが、信長は膨れ上がる衝動をグッと抑え込む。
ーちゅっ…
情欲に身を任せる代わりに、信長は朱里の額に触れるだけの口付けを落とす。
(えっ…?っ…どうして…?)
「そろそろ夕餉の刻限だ。寺の者が呼びに来るだろう。夕餉が済んだら今宵は早く休むとしよう。明日は早い刻限に参内せねばならんからな」
「っ…はい……」
このままもっと深く触れ合ってこの身に信長様を感じたい…私の願いに気付かぬ信長様ではないはずだが、無情にも、私を抱き締めていた腕は解かれてしまう。
思えば、京へ行くことが決まってからというもの、信長様との深い交わりは久しく途絶えていた。
口付けや軽い触れ合いは変わらずあるものの、それ以上深くは触れて下さらないのだ。
(私が和歌の修練で毎日疲れ果ててたから…それ以上疲れさせないように気遣って下さってるんだと思ってた。でも…こんな風に中途半端に触れられると焦らされてるみたいで…余計に気持ちが昂ってしまう)
もっと触れ合いたいと身が焦がれるような切ない想いに囚われながらも、優しく私に接してくれる信長様に、それ以上淫らなお願いなどできるはずもなかったのだった。