第100章 君に詠む
「元気がなかったのは、この文のせいか?」
(俺への恋文で気落ちするなど…愛らしいにもほどがある)
「ごめんなさい…どうしても気になってしまって…」
ガックリと項垂れる姿に、どうしようもなく愛しさが募る。
「朱里、俺は貴様以外の女からの恋文などに興味はない。本音を言えば、読みたくもない。好きでもない女、ましてや会ったこともない女から愛だの恋だの言われたり、恋歌を詠まれたりしても、嬉しいとは思わん。俺は、貴様の紡ぐ言葉だけが欲しいのだ」
「っ……あっ……」
腕を引かれ、胸元に抱き寄せられると、信長様の顔が間近に迫る。
恥ずかしくて顔を背けようとすると、すかさず顎を捕らえられ、揺れる瞳を覗き込まれてしまう。
深紅の瞳が間近に迫り、ドキドキと騒ぐ鼓動が抑えられない。
「俺への恋文に妬いたのか?」
「っ……」
「貴様はどこまでも愛らしいな。文ごときに嫉妬するなど…」
「だって…恋文だと分かったら気になってしまって…それにこんなにたくさんの方からなんて…」
「何人から貰おうが、貴様の紡ぐ言葉以上のものなどない。だが、この文が貴様をそんなにも悩ませたのかと思うと腹立たしいな。いっそ読まずに焼いてしまおうか…」
不敵な笑みを浮かべて冗談とも本気とも分からぬ口振りで言う信長に、朱里は慌ててしまう。
「や、やだ、私、そんなつもりじゃ…」
恋文を書かれた姫君方がどんな方かは分からないが、信長様のことを想って文を認められたのだと思えば、読まずに焼くなどという無体なことはできないような気がするのだ。
(綺麗事かもしれないけど…好きな人を想って書いた文が読まれもせず焼かれてしまうなんて悲し過ぎるから…)
「読まずに焼くなんて…ダメです」
「ふっ…貴様は本当に優しいな。他人の恋文にも情けをかけてやるとはな。優しくて甘っちょろい…だが、貴様のそういうところは悪くない」
耳元で囁きながら、耳朶を柔らかく甘噛みされる。
熱い吐息が耳奥へ注ぎ込まれると、頭の先から足の先まで甘い疼きが走る。
「ンッ…あっ……」
耳朶を食んだ唇は首筋、鎖骨へと順に下へと降りていき、鎖骨の上でカリッと歯が立てられる。
「んんっ!や、あぁ…んっ…待って、信長様っ…あっ…」
噛まれてじわりとした鈍い痛みが走った鎖骨の上を、宥めるようにねっとりと舌が這う。