第100章 君に詠む
不意打ちの強引な口付けに混乱し流されてしまいそうになりながらも、精一杯の力で信長様の身体を押し返す。
「んっ、やっ…待って、信長様っ…」
「素直に言う気になったか?」
余裕の表情の信長様は、唇を離して、口元に勝ち誇ったような満足げな笑みを浮かべて言う。
「っ…はぁ…はぁ…もぅ…強引過ぎますっ!」
「貴様がつまらぬ意地を張るからだ。ほら、早く言え」
言いながら、また少し近づいて、急かすように舌先でペロっと私の唇を舐める。
「や、んっ……」
(うぅ…強引なのに甘くって…こんなの、ドキドキしてしまう…)
口付けだけで私を翻弄する信長様には、秘め事など何一つ出来ないようだ。
「っ…あ、あの…文が…昼間、信長様へ御文がたくさん届いておりました」
「は? 文…だと?それがどうした?」
私の答えが予想外だったのだろう、怪訝な表情になる信長様から離れて文机の前へ行くと、文が溢れんばかりに入った文箱を取り上げて、信長様の前へと持っていく。
「どうぞ」
「あ、ああ…別に急ぎの文はないだろう。どうせ公家どもの挨拶状とか、そんなものに決まって……つっ……」
心底つまらないといった風に言いながら無造作に文を手に取り、何の気なしに差出人を確認していた信長の手が、突如止まる。
グッと眉間に皺を寄せながら、また一つ、また一つと文を確認していく信長の表情が、苦虫を噛み潰したような何とも言えないものに変わっていく。
やがて、はぁ…っと大きく溜め息を吐くと、無言のままで信長の手元を見つめていた朱里に声を掛ける。
「…朱里、これを…見たのか?」
「や、見てませんよ!人の文を勝手に見たりなんかしませんっ!でも…それって女の人からの恋文ですよね…そんなにたくさん…」
「っ…そんな恨めしそうな顔をするでない。勝手に送られてくるのだから仕方がないではないか」
「で、でも…信長様、お読みになるんですよね?これ全部…」
「くっ…一応、目は通すが…」
「………お返事も…書かれますよね?」
「いや、返事は書かんぞ」
「えっ…そうなんですか?でも……」
「礼儀として文には目を通すが、返事は書かん。相手が誰であろうとな。俺から返事を返せば、あらぬ誤解を招くことになるからだ」
「信長様……」