第100章 君に詠む
かき集めた文の束を文箱の中へ戻したものの、どう扱っていいものやら分からず途方に暮れる。
女人からの恋文だと思うだけで気になって仕方がない。
(信長様は、これを全て読まれるのかしら…お返事も…書かれるの?っ…やだ、どんな言葉が書いてあるのか…信長様がどんなお返事を書かれるのか…気になってしまう…)
見ないでおこうと思っても、文の束が視界の端に入ってしまって、どうにも落ち着かない。
(ちょっとぐらいなら……っ、てダメだ、人の文を覗き見なんて、そんなはしたないこと…でも…信長様に他の女人からの恋文なんて、そんなの嫌っ…)
信長様に公家衆から側室を薦める話が多数持ちかけられていることは分かっている。
信長様ご自身は側室を持つ気はないと公言されているが、それでも側室を薦める声がなくならないことも理解している。
信長様が京の女子達に人気があることも分かっている。
分かっているが…どうしても平静ではいられない。
信長様は、上洛のたびに、こうして女人達からの恋文を受け取られるのだろうか…
恋文ぐらいで気持ちが揺らぐなんて情けない。
信長様を信じていれば大丈夫…そう思うのに、心が千々に乱れて嫉妬に身を焼かれる思いになるのだ。
文の束をチラチラと見ては、モヤモヤと燻る気持ちを持て余し、私は結局、信長様がお帰りになる夕方まで落ち着かない時間を過ごしたのだった。